Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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黎明の竜の口(上) 法難の闇を破った「太陽の仏法」

2001.3.29 随筆 新・人間革命3 (池田大作全集第131巻)

前後
4  その日、文永八年(一二七一年)の九月十二日。松葉ケ谷の草庵を、物々しい一群が取り囲んだ。
 幕府の実力者・平左衛門尉が、数百人の兵士を率いて押し寄せてきたのである。
 大聖人は、大高声で言い放たれた。
 「あらをもしろや平左衛門尉が・ものにくるうを見よ、とのばら殿原但今日本国の柱をたをす
 この暴挙の裏には、僭聖増上慢の極楽寺良観がいた。
 良観は、大聖人に、邪義を破折され、偽善を暴かれ、そのうえ「祈雨の勝負」にも負けてしまった。
 「法門」でも、かなわない!
 「人徳」でも、かなわない!
 「現証」でも、かなわない!
 かくなるうえは、大聖人を悪人に仕立て上げるしかない。
 良観は、策謀をめぐらした。権力者やその夫人などを取り込んで、「讒言」すなわち卑劣極まりない「つくり話」を撒き散らしていったのである。
 当時、幕府は、迫り来る蒙古襲来という非常事態に翻弄されていた。「立正安国論」で警鐘を打ち鳴らされた通りの総罰であった。
 国を憂うるならば、道理にかなった大哲人の正論に、謙虚に、真摯に耳を傾けてこそ、真の為政者である。
 しかし、彼らは、民衆の幸福など、ほとんど考えていなかった。国の危機に乗じて、ただ自分たちの権勢を強化しようとした。そして、その邪魔になる、真正の国の宝を抹殺しようと企てたのである。
 「嫉妬に狂った悪侶」と「驕慢に狂った権力者」が、手を組む。近年、仏意仏勅の創価学会に加えられた迫害も、全く同じ構図であった。
 大聖人は、謀反人のように鎌倉市中を引き回された揚げ句、北条宣時の屋敷に預けられた。宣時が、流罪地の佐渡の国の守護職だったからである。
 しかし彼らは、深夜、ひそかに大聖人を屋敷から連れ出した。「竜の口」で、亡き者にするためである。
 つまり、手続きを経た死罪ではなく、権力者による私刑(リンチ)であった。
 何もかもが、「闇」の中で進められた。
 彼らは「正義の太陽」が怖かった。妬ましかった。
 権力の魔性の闇が、残忍な刃を研いで蠢いていたのである。
5  竜の口の刑場への途中、若宮小路で、大聖人は馬から下りられて、八幡宮に向かって、痛烈に諫暁なされた。
 「今日蓮は日本第一の法華経の行者なり其の上身に一分のあやまちなし」「いそぎいそぎ御計らいあるべし
 法華経の会座で、正法の行者を護ることを約束した諸天善神への、叱咤の師子吼であられた。
 さらに由比ケ浜に出てから、大聖人は、熊王という童子を使いにして、四条金吾に急を告げられた。
 金吾は裸足のまま、即座に、兄弟四人で馳せ参じた。
 この重大な局面の証人として呼ばれたのは、最も信頼する在家の弟子であった。
 刑場といっても、特別な施設があったわけではないようだ。砂地に敷物を広げて、斬首の座としたと考えられる。
 刀を手にした武士が、今にも処刑せんと構えた。
 四条金吾が、「いよいよです」と言って、こらえきれず泣いた。
 大聖人が戒められた。
 ――これほど喜ばしいことを、笑いなされ!
 その時である。
 江ノ島の方角から、月のごとく光る鞠のようなものが、突然、飛んだ。
 深い闇が、みるみる月夜のように明るくなった。
 太刀を持った武士は、目がくらんで倒れ伏し、兵士たちは恐れ、「一町計り」も走り逃げた(現代では、一町は約百九メートルといわれる)。
6  この「光り物」の正体は、何だったのか。
 それは、「おひつじ・おうし座」流星群ではないか、という研究がある。
 東京天文台長であり、東大名誉教授でもあった、故・広瀬秀雄博士の説である。
 博士は、文永八年九月十二日夜の「光り物の出現」の時刻について、「月没ごろか、その少し後」と推定されている。
 その日の「月没」は、「午前三時四十四分」という。
 御書には、光り物は、闇を切り裂いて、「辰巳(南東)から戌亥(北西)にかけて」光りわたったと記されている。
 幾多のデータを分析し、解析した結果から、光り物は、午前四時ごろに出現した「大流星」であろうというのが、博士の見解であった。
 その高度は三四度、方位角は南から西へ七九度。
 時期的に見て、これは、エンケ彗星を母彗星とする「おひつじ・おうし座」流星群から生まれたという推察である。
7  まさに、大聖人が、闇の中で斬首されんとした、この時、この一瞬に、大光は放たれた。
 逃げ散った武士たちに、大聖人は「頸を斬るならば、夜が明ける前に、早く斬れ!」と促されたが、臆して誰も近寄ろうとしなかった。
 やがて、波の向こうに、遠く、かすかに紅い光が点った。
 光は、たちまち左右に広がり、上へふくらみ、水平線が、はっきり見えてきた。
 「夜明け」である。
 陽光は急速に大きくなり、海をきらめかせ、空を照らした。雲は七彩の錦となった。
 金色に輝く太陽が、悠然と昇った。
 それは、無明の深き闇を打ち破って、「太陽の仏法」が、地球を包み始めた壮麗なる瞬間でもあった。

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