Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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メロスの真実  

詩歌・贈言「青年の譜」「広宣の詩」(池田大作全集第39巻)

前後
2  その強い真実は 何処にあったのか――
 濁流を泳ぎぬいた体力にあったのか
 山賊を打ち倒した武勇にあったのか
 いな!
 すべてが本質を衝いていない
 ふと 心を横切る疲労の悪夢に
 厳しくも打ちった
 汝自身の胸中の制覇にあったのだ
  
 なつかしい故郷への未練
 あたたかな団欒への愛着
 その何ものにも屈せざる勇者を
 ひとたびは倒した内なる最悪の敵――
 その時かれは
 己れの挫折を肯定し
 堕落と遊戯へとひそかに誘う
 自らの心の迷夢と
 交流したにちがいない
  
 しかしメロスは起った
 メロスのは
 縹渺ひょうびょうたる夢幻の甘美を越えゆく
 熱い正義の青年の情熱があった
  
 彼は勝った
 自らに勝った
  
 古来 転向者の道には
 断ちがたい浅薄あさい恩愛のばく
 堪えがたき苦痛の恐怖に
 一歩淋しく後退した時
 さらに己れを後退させる
 あの自己正当化の論理がある
3  私は――
 その弱さをわらいたくはない
 その未練を嘲りたくはない
 そのおくれを責めたくはない
  
 誰がついてこなくともよい
 すべてを客観視しながら
 深く静かに端座しながら
 私は 己れの使命に目を凝らして
 正義の波に向かう者の戦列に加わりたい
  
 だが 私は言いたい
 友を捨てた安逸には
 悔恨の痛苦が 終生離れぬだろう
 さびしい頬笑ほほえみを滲ませながら
 片隅に悲しげに生きるよりは
 むしろ真実の死を選びたい
  
 一人でもいい
 すべてをみこんでやまない
 あの雪崩に抗うものがなかったら
 「真実」は永劫未来に敗北をつづけ
 歴史は架空と虚妄の羅列と化すだろう
  
 私は銘記したい
 真の雄大な勇気の走破のみが
 猜疑と策略の妄執を砕き
 人間真実の
 究竟の開花をもたらすにちがいない、と
  (1971.10.31 太宰治『走れメロス』を題材)

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