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日蓮大聖人・池田大作

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『源氏』から『平家』への転換点  

「古典を語る」根本誠(池田大作全集第16巻)

前後
1  根本 『今昔物語集』の成立は、院政期と言われていますが、その意味では、古代末期から中世への転換期の姿を、リアルにとらえていると評価できます。
 とくに、巻二十五に収められた物語は、平将門や藤原純友の話から始まって、王朝貴族とは異質の、新興武士階級の生き方、倫理が、生き生きと描かれています。
 池田 とくに源充、平良文という二人の武士の合戦譚(第三話)などは印象的ですね。また有名な源頼信、頼義父子が馬盗人を射る話(第十二話)も、王朝社会の閉ざされた、湿潤な空気を吹き飛ばすような、からつとしたさわやかさにあふれていて、私も好きな物語です。
 根本 少し長くなりますが、第三話の一騎打ちのところを引用してみます。
 「雁胯カリマタツガヒテ走ラセアヒヌ。互ニ先ヅ射サセッ。次ノタシカニ射取ラムト思テ、各ノ弓ヲ引テ箭ヲ放ツテ馳セ違フ。各走セ過ヌレバ、亦各馬ヲ取テ返ス、亦弓ヲ引テ箭ヲ不放シテ馳セ違フ。各走セ過ヌレバ亦馬ヲ取テ返ス、亦弓ヲ引テ押宛ッ。良文、充ガ最中ニ箭ヲ押宛テ、射ルニ、充、馬ヨリ落ル様ニシテ箭に違へバ、太刀ノ股寄ニ当ヌ。充亦取テ返シテ、良文ガ最中ニ押宛テ射ルニ、良文箭ニ違テ身ヲ■■ル時ニ、腰宛ニ射立テツ」(大系25)
 欠文もあり、繰り返しが多くて単調な文章のようですが、一騎打ちの模様を簡潔に、しかも力強く描写しています。
 和漢混淆文と言われているこの文体は、王朝時代にはないもので、のちの軍記物語に大きな影響を与えたとされています。
 池田 文体の面でもそうでしょうが、内容的にも、『今昔』は『源氏物語』から『平家物語』への転換点に成立していると言っていい。そこに混沌もあり、矛盾もあるが、また、豊饒な魅力もあるわけです。
 『平家物語』 鎌倉時代の軍記物語。十二巻。もとは琵琶法師という僧姿の芸人が琵琶を伴奏にして語ったものだが、次第に多くの人の手が加えられていった。平家の全盛期から源頼朝、義経等に滅ぼされていくまでを物語風に描いている。

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