Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

画期的な転換の時代  

「古典を語る」根本誠(池田大作全集第16巻)

前後
1  根本 四十日におよぶ北南米の訪問旅程を終えて、帰国されたばかりで……さぞお疲れでしょう。
 池田 いや、このとおり、ますます元気です。溌溂たる海外の友と親しく接し、語り、また、それが新たなエネルギー源になっているのかもしれません。
 根本 ところで、アメリカでは、オカルトが、以前からブムになっているようですが、日本にもその波がきています。念力とか、密教書などが話題になっている。一方では、ここ数年の現象として、仏教書への関心も、かなりの高まりが見られますが、こういう風潮をどう考えられますか。
 池田 超能力ですか。(笑い)
 個々の現象を微視的にとらえてみれば、ずいぶんおかしなこともあり、矛盾したものもあるでしょぅ。すべてが、一つの方向を指し示しているとは、かならずしも言えないかもしれない。だが、巨視的に展望すれば、そこにはやはり、現代という時代の世界的な傾向をうかがうことができるのではないかと思います。
 根本 現代人が東洋の思想・哲学、とくに仏教に注目しはじめた背景として、いわゆる近代合理主義の行きづまりということが、考えられますね。
 池田 たしかに、それは指摘できますね。
 近代文明の驚異的な進歩・成長は、物質的な豊かさを飛躍的に増大したけれども、人間の精神の問題を置きざりにしてきている。心の飢えは、満たされていないと言っていい。さらに、その豊かさ自体が、いちじるしく不平等であったり、アンバランスが激しい。
 また、進歩と豊かさを徹底的に追求してきた近代文明そのもののうちに、その根底から崩壊へ導いていくような要因が、はっきりと現れてきた……。
 根本 戦争とか、環境破壊などをひき起こしていく文明のあり方への、疑問と反省とが自覚されているわけですね。
 池田 ええ、それは、今度のアメリカ訪問でも、あらためて痛感しました。それはまだ全体としては無意識的であるかもしれないが、人類の共通の課題として考えられ始めている。そういう意味で、二十世紀――私たちの生きているこの世紀は、まさに画期的な転換の時代ではないかと思われてならないのです。
 根本 戦後の世界、さかのぼっては二十世紀の全体を支配してきた価値観が、大きく動揺している。新しい価値と目標が、切実に求められているというのが、転換期の特徴と言えるでしょうね。
 池田 新しい価値とは何か、何によってその転換をひらく鍵とするか、――その模索のなかで、仏教への関心の広がりという現象が起こってきていると考えたい。かつて私は端的に、この来るべき世紀の指標を「人間の世紀」「生命の世紀」という言葉で表現したのですが、それが今、人類の普遍的な希求のうねりとして高まっているのを実感せざるをえないのです。
 根本 転換期という点では、今回のテマである『今昔物語集』の集成された時代は、日本の歴史のうえで、注目すべきものがありますね。そういう現代との関連性という点を念頭に置きながら、話を進めていきたいと思いますが……。
 『今昔物語集』 平安後期の説話集。三十一巻だが現存本は巻八、十八、二十一の三巻を欠く。成立の事情については定説がない。時期としては院政期の初め(12世紀初頭)と見られるが、編集の人数や規模、目的などについては不詳。全巻は、まず話の地域によって天笠(インド)、震旦(中国)、本朝(日本)の三部に大別され、さらに仏教説話と世俗説話に分けられる。登場人物はあらゆる階層の人間から、神仏や妖怪変化、動植物にまで及んでいる。作者の意図は、仏法渡来の道順を・たどり、三宝(仏・法・僧)への尊信を具体的にわかりやすく啓発することにあったらしく、当時としてはかなり成功したのではないかと思われる。

1
1