Nichiren・Ikeda
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人間の心の切なさ
「古典を語る」根本誠(池田大作全集第16巻)
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1 池田 ああ、萩がきれいだ……。
根本 創価大学の庭には、ずいぶん咲いていますが、たいへん気に入られたようですね。
池田 ええ、非常に……。
私は萩が好きで、どこへ行っても、萩が咲いているとうれしいし、かならず眺めます。私だったらこの道を「萩の道」と命名したい。
根本 「萩の道」というのは、いいですね。
池田 萩は優美でありながら、どこかシンの強さがある。咲きこぼれるような、あの気品のある小さい赤い花、白い花の可憐さが、何とも言えない。昔から、優雅な秋の代表的な花と言われるのも、もっと
もだと思います。
根本 『万葉集』にも、萩は数多く歌われています。
池田 萩は、平和と文化を愛する人の花と言えるでしよう。秋の七草の筆頭に、萩をあげたのは、山上憶良でしたかね。
秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種の花(大系5)
萩の花尾花葛花瞿麦の花 女郎花また藤袴朝貌の花(大系5)
根本 憶良にしては、なかなか優しい趣の歌ですね。あの時代には、萩などの花を髪飾りにする習慣があったそうですが、万葉にはそういう歌もある。
池田 挿頭でしたか――。路傍に咲き乱れる花にも、人生の想いを託し、感情をこめた、古代人の抒情が象徴されているようです。
ところで、これは萩ではないが、『古事記』のなかでも、それが歌われているところがあります。
倭建命が、故郷を偲んで歌った、とされている――
命の 全けむ人は 畳薦 平群の山の 熊白檮が葉を 髻華に挿せ その子(大系1)
樫の葉を髪に挿すと、長寿がまっとうできるという信仰があったのでしょう。他愛ないと言えばそれまでですが、私は、そういう祈りに生きた人間の心の切なさというものが、わかるような気がします。
神話時代の非合理性を、すべて、迷信だとして、あっさり片づけてしまうことは簡単ですが、それでは……人間の精神の豊かさというものが、なくなってしまうだけでしょう。