Nichiren・Ikeda
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日蓮大聖人・池田大作
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母
詩歌・贈言「青年の譜」「広宣の詩」(池田大作全集第39巻)
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1
母よ!
おお 母よ
あなたは
あなたは なんと不思議な力を
何と
豊富
ゆたか
な力を もっているのか
母よ!
おお 母よ
あなたは
あなたは なんと強き調和の存在か
なんと いいようのない会話の名人か
灰色に染まり抜く公害の社会
濁りの音に狂いゆく窒息の都会
光明の道のない閉じこめられた地球
もはやそこには出口がない
もし この世にあなたがいなければ
還るべき大地を失い
彼らは永遠に 放浪しなければなるまい
母よ
母よ!
あなたは簡単にして根強い
あなたは直感的にして一途だ
あなたは正直にして頑迷だ
しかし
しかしあなたは 万人の顔の心の
故郷
ふるさと
だ
モナリザの微笑
ビーナスの輝き
いな生活に挑む平凡な顔にも
世間の波に洗われた健気な顔にも
哀歓に勝利した小さい栄光の親しき顔にも
母という顔には
全てに歴史の美しさがある
2
なにゆえに人びとは
その象徴に襟を正し
至高の香にひざまずくのか
――いうまでもない
海よりも広い 一見とらえどころのない
あなたの愛の深さがあるからだ
母なる結晶の笑いには
不透明の中の安らぎがある
これらの矛盾にみえる感性の結実が
迷路に落ち込んだ観念の対立を
いくたび 正視に軌道に戻したことか
いかなる哲人の論理もあなたを超えない
いかなる聖人の教えも
あなたより変奏の曲に聞こえる
あなたの頭脳を超えた人は
いくらもいるだろう
だが それは
幻覚の面影の世界といってよい
それが証拠に
かれらは 道に行き詰れば
必ず 澄んだあなたの
懸命の声を聴くだろう
そしてそこから
新たな才能の構築の原点を
見出すにちがいない
時代
とき
はいよいよ病んでいる
ベトナムに
カンボジアに ラオスに
悲惨と残酷の狂声がたえまない
3
おなじ人間が おなじ子どもが
なぜ相争うのか
何と惨めなる人間の業――
こんな愚かな事業から
人間は そして文明は
いまなお解放されていないのだ
恐ろしく空虚で不正義な
戦争という名の破壊事業
そこには
誇大がかった 偽の崇高な使命もあろう
己が理論の正当性もあろう
体面も 名誉も 意地も共存していよう
母の本能の智性は 叫んでいるに違いない
人間よ
こんな気どりの勲章のために
こんな虚像の名誉のために
こんな犠牲をつくる権力のために
なにゆえ 尊いこの生命を
路傍の屍とするのか と
そして
あの薪と炉のほとりを想い起こして
昔
いにしえ
の母の
詩
うた
をうたってもらいたい と
母は待っている
汚れなき涙を浮かべ
少年の頃の人間として
母の
懐
ふところ
に抱かれ
揺り籠の平和の
夕
ゆうべ
に
母の奏でてくれる魂の歌に
お伽の国を探検しつつ
安らかな寝息をたてて夢みた
あの健康な日々の復活を
4
母は
母は いついつまでも
われわれの忠実な侍者であった
未来からの
語部
かたりべ
であり
名歌手であり 名演奏家であり
強力な支援者であった
母はきっと願っているに違いない
人間が
変に大人ぶらないで
変に傲慢ぶらないで
この自らの純粋な発祥を自覚するならば
地平線上の争いは
いつか絢爛たる
平和の緑につつまれるだろう と
人は
これを感傷として
冷笑することは
容易
たやす
い
そんな弱々しい訴えで
カオスに踏み迷った人間群が
真っ暗な密林から抜け出られるかと
哄笑するかもしれぬ
だが母なる哲人は叫ぶ――
人間よ
静かに深く考えてもらいたい
あなたたちの後ろにも
あなたたちの成長をひたすら願う母がいる
ベトナムのアメリカ兵にも
わが子の生命を強烈に気づかう母がいる
硝煙の廃墟に苦しむ解放軍の背後にも
わが子の無事を祈り悲しむ
傷ましい母が待っているのだ
5
母という慈愛には
言語の桎梏もない
民族の氷壁もない
イデオロギーの相克もない
爽やかな畦道にも似ていようか
人間のただ一つの共通の感情
――それは母のもつ愛だけなのだ
その母の嘆きの悲願の姿に
チラッとでもいい
私たちは敬虔な視線を
刹那に送る余裕をもちたい
その母子の伴奏のなかにのみ
人間という人間の
深い心性が光沢にみがかれ
晴れやかな真実の進歩と
革命への前進があるはずだ
そしてその時
人間は遥かなる
共通の母をもつ兄弟として
対話と信頼に融和させていく
未聞の文化興隆の
崩れざる行進を開始することだろう
母よ
わが母よ
風雪に耐えぬいた可哀想な母
悲しみの合掌を繰り返してきた
いじらしい母
あなたの願いが翼となって
天空に舞いくる日まで
いついつまでも達者に と
私は祈らずにはいられない
6
母よ
そして母よ!
あなたのその慈しむ愛の力を
断じて孤立させてはならない
それはなぜか――
盲愛では不幸の翳りが漂うだろう
故に連帯と目的と理性に裏づけられた
慈母の愛のみが
苦しみ嘆く野蛮の未来に
点睛
てんせい
の光線を入れることができるからだ
その地道なる点火が
ただ一つの道として
生命の尊厳を
この世から真実に防衛できると思うからだ。
打ちひしがれて微笑を失った
失望と
紅
あか
い涙の
あの暗い 女の歴史は
もはや永遠に 太古の化石としたい
今からは
今日からは
あなたの あなた自身の変革による
思想と聡明さをもって
わが家に憧憬の太陽を
狭く薄暗い社会に明朗な歌声を
春を願い待つ地球上に
無類の音楽の光線で 平安の楽符を
伸びのびと奏でてほしいのだ
その逞しくも持続の旋律が
光と響の波として彼方を潤すとき
あなたは蘇生しゆく人間世紀の母として
悠遠に君臨するにちがいない
(1971.10.4)
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