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日蓮大聖人・池田大作

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2 ”心の距離”を近づける  

「人間と文化の虹の架け橋」趙文富(池田大作全集第112巻)

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5  ”韓国版新幹線”が営業運転を開始
 池田 とても示唆深いお話です
 こうした具体的な「南北交流」が、今後一つ一つ実現していくことを心から念願してやみません。
 南北関係と言えば、二〇〇四年四月より、営業運転を開始した「韓国高速鉄道」は、将来、「南北縦断鉄道」とも連結される構想があるようですね。
  そのとおりです。ソウル駅での開通式典で、高建コゴン首相も「南北縦断鉄道、シベリア横断鉄道と連結し、北東アジアの物流の中心国家を目指していきたい」との抱負を述べていました。
 池田 この高速鉄道は、貴国の社会生活をどのように変えていくでしょうか。
  時速三百キロを超える高速鉄道と、既存の交通手段によって、わが国の多くの地域が日帰り生活圏に入りました。
 物流や地域振興に、おいて、大きな経済効果も期待されています。
 池田 貴国の高速鉄道は、フランスの新幹線を参考にしたそうですね。
  この高速鉄道は、もともとフランスの技術を土台にし、一九九二年から「天安チョナンーー大田テジョン」間で工事が始まりました。
 ソウル近郊から韓半島南東部の東大郎までは、ほぼ全線が専用線です。一部区間は、日本の新幹線でも見られるように、在来線を利用しています。
 池田 いつごろ、全体が完成する予定なのですか。
  二〇一〇年までには第二期工事が終了し、「ソウル|釜山プサン」間が二時間以内で結ばれる予定になっています。
 まだまだ課題は多いですが、先ほどの首相の言葉にあるように、「南北縦断鉄道」の北朝鮮側部分が完成すれば、この高速鉄道とも一本につながることが期待できます。
6  徒歩で印した中国への第一歩
 池田 中国でも、二〇〇八年の「北京オリンピック」に向けて、「北京ーー天津」間をはじめ、上海や南京などの大都市を結ぶ「高速鉄道」の建設計画が具体的になってきていますね。
  はい。今、「物理的な距離」は、世界的に、想像を絶するスピードで狭まってきています。
 だからこそ、今後の課題は、「心の距離」を、どう縮めていくかではないでしょうか。
 池田 同感です。「心の距離」をどう近づけていくか。そこが焦点です。カギです。
 思えば三十年前(一九七四年五月)、私が初訪中した時、まだ「東京北京」問の直行便はありませんでした。
 まず東京から香港まで行き、香港の九竜駅から羅湖駅まで列車に乗って、そこからは徒歩で中国との境界線となっている鉄橋を渡りました。
 そして、中国の深圳しんせんに第一歩を印しました。
  池田先生の日中友好への偉大など貢献は、よく存じ上げています。当時は、時間もかかったと思います。
 池田 中国に入り、深圳からは再び鉄道で広州まで行き、そこから空路で北京に向かいました。東京からじつに、二日がかりの旅程でした。
 今日では、わずか三時間ほどで到着します。
 ともあれ、どんなに「物理的な距離」が狭まっても、「心の距離」は自然には埋まりません。大切なのは、一歩一歩、自分のほうから近づいていく努力ではないでしょうか。
  その行動が大事ですね。
 池田先生が、ソ連に初めて行かれたのは、いつでしたか。
 池田 初訪中と同じ一九七四年の九月に、ソ連を初訪問しました。
 ”宗教者が、社会主義の固に、なぜ行くのか”いった、轟々たる非難や中傷を浴びました。また、当時は、厳しい中ソ対立の時代で、中国の友人からも批判されました。
 しかし、中国もソ連も、日本の隣国です。いつまでも不正常な関係であってはならない。”人と人との交流、そして心と心の交流から、平和と友好の道が開かれる”との信念でした。
 池田先生が世界平和を願い、中ソに、率先して「友好の橋」を架けてこられた事実は、時とともに輝きを増していくことと信じます。
7  在日韓国・朝鮮人と日本社会
 池田 「心の距離」は、何も国と国との関係にかぎりません。一つの国の中、社会の中、さらには、もっと身近な周囲の人間関係にも問題は存在します。
 その一つが、在日韓国・朝鮮人の問題です。
  その点に関しても、池田先生は前回の対談集で、「在日韓国・朝鮮人の方々への『差別』を温存したまま、『共生』を主張することは”暴力”にも等しい」「『無関心』は悪です」と訴えてくださいました。
 参政権の問題もそうですが、日本は、在日韓国・朝鮮人に対し、平等に就職の機会も与えるよう、さまざまな職場の門戸を開いてほしいと思います。
 池田 重要な課題です。
 もちろん、そうした権利が保障されるためには、在日の人々がよき市民として生活を営み、日本社会の中で信頼されることが大前提となってくると言えましょう。
 私も、つい最近までは、少しでも親日的な言動をすると、国内で批判されたり妨害を受けたりしたものでした。
 日本でも同じかもしれませんが、韓国においても、自分の目で真実を確かめるととなく、偏見だけで批判をする人が少なからずいます。
 以前、「日本などに行って研究したくはない」と公言する学者がいました。しかし、時は過ぎ、その学者は、現在、日本の大学で教鞭を執っています。
 池田先生がおっしゃったように、同じ「人間として」自分から会いに行けば、こだわっていたことが、どれほどちっぽけで、ばかげたことか、よく分かると思うのです。
8  関東大震災と牧口会長の救援活動
 池田 寛大など意見に感謝します。
 貴国の人々に対する差別が残酷な形で表れたのが、一九二三年、関東大震災の時でした。
 この震災の直後、「朝鮮の人が暴動を起こし、各地で放火や暴行をしたり、井戸に毒を入れたりしている」とのデマが広がり、戒厳令が敷かれました。軍や警察や自警団の手によって、罪もない貴国や中国の人々が数多く犠牲となりました。
 一説では、貴国の犠牲者は六千人以上にのぼるとも言われます。
  じつに悲しむべき歴史です。
 日本人は個人としては、本当に正直で親切です。しかし、団体や集団になると、傲慢になり、嘘をつくことがある。これは、私の率直な実感です。
 戦前の軍国主義の日本にも、そうした嘘や傲慢が根付いていて、民衆を不幸に突き落としたのではないでしょうか。
 それと戦いぬき、亡くなられたのが創価教育の父である牧口初代会長であったーー私は、そのように考えています。
 池田 深いご理解、本当にありがたく思います。
  二〇〇二年の夏、済州大学に語学研修に来ていた創大生と短大生に、私は、お話ししました。
 ”「八月十五日」は日本の敗戦の日であると同時に、牧口先生の「人間勝利の日」である”と。
 日本にも牧口初代会長のように、軍国主義に対し、最後まで信念をもって戦いぬいた人物がいた。
 そのことを、もっと多くの日本人が知るべきです。
 池田 牧口会長は、関東大震災の折も、罹災者の救援活動に率先してあたりました。
 当時、牧口会長は小学校の校長でしたが、罹災した人々への救援物資を、教職員や児童たちと協力して集めたりしました。
 牧口会長は救援活動に励む児童のために、煮芋を用意してあげています。また、こうした助け合いの精神が、一生涯、子どもたちの心に残るようにと、児童たちといっしょに記念撮影もされています。
 そうした牧口会長の行動が、児童たちの眼に焼き付いて離れなかったといいます。
  牧口会長は自身の行動をとおして、子どもたちに生き方を教えていかれたのですね。
 池田 ええ。牧口会長は、何ごとも、みずから積極的に人々に関わっていく方でした。
 震災の時も、教職員や児童たちに、いっしょに救援活動をやろうと自分から呼びかけていったのです。また、地域の避難所として、白金小学校を開放し、催災者を受け入れ、励ましていった。
 牧口会長は、校長と児童との、そしてまた擢災者の方々との「心の距離」を自分から縮めていかれたと言ってよいでしょう。
 そして、子どもたちの汚れのない善性を育んでいかれたのです。
9  「SGI憲章」に記された理念
  教育者として、人道主義者として、牧口会長の新しい一面を見た思いがします。
 その牧口会長の精神が、そのまま池田先生、そしてSGIの方々に受け継がれていることを実感します。
 以前、私は、「SGIのどこがすばらしいか」という話を、学生たちにしたことがありました。
 その時、私は、
 「人類社会のために平和を目的として、人間の価値を大切にしていること」
 「理想と現実を調和させている組織活動であること」
 「組織に嘘がなく、純粋であるとと」の三点を挙げさせていただきました。
 これはまさに、日本人に対して私が望んでいる点でもあります。
 とくに、マスコミなど、言論を扱う人間は、嘘がなく、正直で誠実であるべきです。
 池田 博士のご期待にお応えしていけるよう、これからも、私どもは真剣に努力してまいります。
 一九九五年、私どもは「SGI憲章」を制定しました。その中で、
 「SGIは生命尊厳の仏法を基調に、全人類の平和・文化・教育に貢献する」
 「SGIは『世界市民の理念』に基づき、いかなる人間も差別すことなく基本的人権を守る」
 「SGIは各加盟団体のメンバーが、それぞれの国・社会の良き市民として、社会の繁栄に貢献することを目指す」
 「SGIは真理の探求と学問の発展のため、またあらゆる人々が人格を陶治し、豊かで幸福な人生を享受するための教育の興隆に貢献する」等の理念を明確に記しています。
 どこまでも、「人間主義」の行動が根本です。そして、一人一人が主体者の自覚で、精神の「創造性」を豊かに発揮しながら、社会と人類の繁栄に貢献していくことを目指しています。
 その各国の善意の人々の連帯は、必ずや「平和の文化」の構築と、「心の距離」をさらに近づけることに貢献していくと強く確信しています。

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