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日蓮大聖人・池田大作

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まえがき  

「21世紀への母と子を語る」(池田大作全集第62巻)

前後
2  ――夫を失い、一人で男の子を産んだ、若いお母さんエリザベートは、名づけ親になってくれた、隣の家の不思議なおじいさんから、こう言われ、考え込んでしまいました。
 「子どもにとって一番よいこと」って、いったい何だろう……。
 お金持ちになること? 強く健康な体? 美しさ? それとも賢さ?
 結局、お母さんが願ったのは、「みんなが、この子を愛さずにはいられないようにしてください」ということでした。
 子どもは「アウグスツス」と名づけられ、お母さんの願いどおり、かわいらしく、だれからも愛されて育っていきます。意地悪や、いたずらをしても、嫌われません。人々から、ちやほやされ、甘やかされるばかりです。
 しだいに、彼は、大きくなるにつれて、わがままになり、傲慢になっていきます。
 やがて、アウグスツスは、母の元を離れ、都会に出て、順調に世間をわたり、上流社会に出入りするようになりました。その横暴は、どんどんひどくなり、多くの人を傷つけて、破滅的な生き方をするようになってしまったのです。
 心配していたお母さんも、亡くなりました。
 心の中は、いつもむなしい。何の喜びも、充実もない人生。絶望した彼は、こう叫びます。
 “「人々から愛される」という魔力はいりません。そのかわりに、自分が「人々を愛する」ことができるようになりたいのです”と。
 魔力は、ただちに消え、彼は、現実のありとあらゆる厳しい試練に、さらされることになりました。
 しかし、人々を愛し、人々に尽くすようになった彼は、初めて、本当の生き甲斐と、深い人生の味わいを知りながら、ふるさとへと帰っていきます。
 その目には、お母さんと一緒だった頃の、あの美しい輝きが蘇っていたのです――。
 ドイツのノーベル賞作家、ヘルマン・ヘッセの作品集『メルヒェン』に収められた、おとぎ話です。
3  人は皆、わが子に、さまざまな願いや、思いを託すものです。しかし、ヘッセのおとぎ話が物語っているように、子育ては、なかなか親が思ったとおりにいくものではありません。
 「子どもを、どう育ててよいか、わかりません」「子どもを育てていく自信がありません」という悩みをかかえたお母さんが、増えているとも聞きます。
 教育をめぐって、さまざまな議論のなかで、家庭でのしつけのなさや、親が善悪の価値観を教えられないことを心配する声も多くなっています。
 不登校や、いじめなどに、勇気をもって、かかわっていくべき家庭のあり方も、考えなければなりません。
 子育てを通して、親自身の「生きる姿勢」そのものが、そしてまた、人間としての「目標」と「哲学」と「理念」が問われてくる、といってもよいでありましょう。
 子どもを育てていく過程では、思いもよらない、困難な出来事に出合うものです。
 その時こそ――
 お母さん、あなたの「愛」が必要です。
 お母さん、あなたの「強さ」が大切です。
 お母さん、あなたが「負けないこと」が、お子さんの人生の勝利につながります。
4  そうした思いを込めて、創価学会婦人部の代表や、教育に携わる方、実際に子育てに奮闘する方々とのてい談を、月刊誌『灯台』に連載しております。
 語らいの内容は、すでに『21世紀への母と子を語る』として一冊にまとめられました。
 本書は、その第二巻目になります。
 私は、語らいを進めながら、いつも、子育てに汗を流す、けなげなお母さんたちの姿を思い浮かべています。二十一世紀へと羽ばたきゆく、子どもたちの姿を胸に描いています。
5  明2000年、「女性の世紀」のシンボルとなる「創価世界女性会館」が、東京の新宿・信濃町に完成します。私は「すべての母と子に幸福あれ!」との祈りを込めて、「ハッピーマザー」と題する絵(ミッシェル作)を、この会館に寄贈させていただきました。
 やわらかな陽光に包まれて、幼子を抱くお母さん。赤ん坊は、ふくよかな手を伸ばし、お母さんを見つめています。お母さんは、おだやかな微笑みを浮かべて、赤ちゃんに優しい眼差しを注いでいます。
 愛情に満ちた、すこやかな「母と子」の姿にこそ、永遠の平和があり、繁栄があり、人類の無限の希望がある――そう私は信じています。
 本書が、二十一世紀へ幸福の大道を歩みゆく「母と子」の皆さま方と、ともに語り、ともに励まし合う一書となれば、私にとって、これほど、うれしいことはありません。
    一九九九年十一月十八日  池田大作

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