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日蓮大聖人・池田大作

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セレブロフ会長 全ロシア宇宙青少年団「ソユーズ」

随筆 世界交友録Ⅲ(池田大作全集第124巻)

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1  地球は、みんなの「共通の家」
 「二十世紀を象徴する写真」を一枚選ぶとしたら、どうなるだろう?
 最有力候補の一つは「宇宙から撮った地球」の写真かもしれない。
 人類が誕生してから数百万年。
 今世紀、初めて、自分たちの「ふるさと」の全体像を見たことになるからだ。その意義は、とてつもなく大きい。
 「そのとき、私は、ものの考え方が変わってしまいました」。そう語るのは、ロシアの宇宙飛行士、アレクサンドル・セレブロフ氏である。
 一九八二年、宇宙船「ソユーズ」で、初めて宇宙へ。
 地球を見ると、「ほとんどが海に覆われている」ことを実感した。その中に浮かぶ陸地。美しかった。
 アフリカ大陸から、マダガスカル島へと続く「コモロ諸島」は、まるで光る貝殻をちりばめたように見えた螺細細工のようだった。
 宇宙ステーションは、約一時間半で地球を一周する。日の出と日の入りを何度も見た。息を呑む荘厳さだった。
 地球は小さかった。
 人間が引いた国境線など、宇宙からは見えなかった。
 しかし、この狭く美しい地球の上で「人類は正しく生活していない……」。そう思った。
 宇宙から見ると、自然を人間が、どんなに破壊しているか、はっきりわかった。
 2000年の10月に、お会いしたとき、こう言われていた。
 「地球の汚れた姿を見るのは、悲しいことです! ロシアの南ウラル地方は、老朽化した工場が周囲を汚染していました。夜のロンドン上空を飛んだときは、テムズ川が、リンで緑色を帯びた蛍光色に光っていました」
 黒海の汚染もひどかった。川から畑作の肥料が流れ込み、黒海の動植物を死滅させていると言う。
 北海も、アドリア海も汚れていた。
 ブラジルで、農地にするために熱帯林を焼く煙が、雲のかたまりよりも、もっと大きく立ちのぼっていた。
 「われわれ地球の住民は、同じ一つの宇宙船に乗った乗組員です。同じ空気と水、エネルギー資源を分かちあうべき乗組員です。一つ一つの行動が、隣人に影響を与えます」
 氏は、大油田なども、一部の国が占有するのではなく、人類全体の共有財産として、使い方を国際機関で決めることを提案している。
 そもそも先進国は、大量のエネルギーを使っている。そのさい、途上国の何倍もの酸素を「ただで」消費している。しかし、その酸素は、大森林地帯をもつ途上国で、多くつくられているのだ! 「空気に国境がない」なら、資源だけに国境があるのは、おかしいのではないだろうか?
 「地球全体が、われわれの『共通の家』なんだという『宇宙哲学』を打ち立てるべき時代に入っているんです。その哲学を広める使命を、われわれ宇宙飛行士は痛感しています!」
2  遊泳中、命綱が外れ危く宇宙の藻屑に
 氏との語らいは、東京牧口記念会館で。会館の窓から見える丘を、私は「月光の丘」と呼んでいる。秋の月天子が涼やかな白光で、地上を照らしていた。
 セレプロフ氏の隣では、国立舞踊団の”舞姫”だったエカテリーナ夫人が、柔らかな微笑みで聞いておられる。
 「ご主人が宇宙に飛び立つとき、さぞかし心配だったでしょうね?」と、うかがうと、「宇宙飛行は彼の夢でした。生涯をかけて、この道をめざしてきたんです。ついに、その努力が実を結ぶときが来たのですだから、私も本当にうれしく思いました」とのこと。
 宇宙と地上と。これほど遠く離れて暮らした夫妻も少ないわけだが、どんな距離も、”心を結ぶ糸”を切ることはできなかったのである。
 その一方、宇宙で”命の綱”が切れかけたことがある。それは、氏の六回目の宇宙遊泳のとき。宇宙空聞に出たとき、命綱が外れてしまったのである。
 ちなみに氏は、四回の宇宙飛行、十回の宇宙遊泳を行い、ギネスブック(1993年度版)にも記載されている。
 「あれは、九三年の九月十六日でした。船長が『命綱が外れているぞ!』と叫びました。『そんなこと、わかってますよ!』と私は強がりを言ったものの、必死でした。宇宙にわが身が放り出されてしまうわけですから」
 なんとか宇宙ステーションの一部にしがみついて、奇跡的に助かった。あらためて、人間は「地球の子ども」であり、地球こそ「ふるさと」であることを実感した瞬間だったかもしれない。もしも、生身で宇宙に出ると、たちまち人体は沸騰してしまうそうである。
 こんな興味深い話もしておられた。
 地球には地球の固有のリズムがある。これが「人間の脈拍」と、ほぼ同じだというのである。
 「いくつかの音を比較研究した結果、『血液が血管を流れる音』と、地球が発する固有の振動数が、和音を奏でていることもわかりました」
3  「宇宙の哲学」は地上の「平和の哲学」
 地球は生きている!
 仏法の見方からすれば、宇宙も大きな一つの生命であり、地球もまた巨大な生命体であると考えられる。人間も、他の生き物も、すべて、その一部であり、一体である。
 私は氏に、強い共感を語った。
 「『宇宙の哲学』が今とそ必要です。それは即『生命の哲学』であり、『人間の哲学』であり、『平和の哲学』だからです。宇宙を知らずして、私たちの地球を知ることはできません。宇宙に向きあうことなくして、地上の平和も確立できません」と。
 氏は行動もしておられる。”宇宙的視野から地球を見る大切さ”を各国で語り続け、「世界の子どもの宇宙大使」として親しまれている。全ロシア宇宙青少年団「ソユーズ」の会長であり、団では五万人の子どもたちが学ぶ。
 「ぼくたちは地球市民であり、宇宙市民、なんだ!」
 そういう哲学を身につけた子どもたちが世界中で活躍するようになったら、なんとすばらしいことだろうか!
 いな、そうなることが、どうしても〈二十一世紀の地球〉には必要なのである。

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