Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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田方会館を訪問 悠々たる確信の人生を

1986.7.1 「広布と人生を語る」第9巻

前後
1  愛する田方の地を、十年ぶりに訪問でき、ほんとうにうれしい。また、管理者のいない会館でありながら、室内も庭園も美しく整備されていてすがすがしい。これも”会館を守る会”の方々の真心のたまものであると、心から感謝申し上げたい。
2  十五巻にのぼる湊邦三氏の大河小説『日蓮大聖人』は、後世に残る名作であると思う。
 この大作を、湊氏は、この会館にほど近い畑毛の地で、無類の碩学であられた堀日亨上人からかずかずの御教示を受けながら執筆されている。ゆえに作品には小説ゆえの脚色もあろうが、内容には厳密な正確さが期されており、大聖人の御生涯と当時の史実を知るうえで大いに参考になる好著といえよう。
 湊氏は、戸田先生と親交が深く、私も何度かお会いし、種々懇談をしたことがある。たいへんに立派な方であった。さきほども勤行のさい、ねんごろに氏の追善を祈らせていただいた。
3  田方というと、どうしても思い出すのは狩野川台風のことである。昭和三十三年九月、当時は戦後最大といわれたほど大きな被害をもたらした。
 狩野川の氾濫の後、当時総務であった私はお見舞いと会員の方々の激励に田方に駆けつけた。戸田先生がご逝去されて約半年後であり、学会にとってもっともさびしい時期であった。被害のもようはまことに悲惨きわまりない状況で、学会員もふくめ九百五十人もの水難者が出た。
 私は、親族を亡くし悲しみにくれる方など数十人の被災者の方々にお会いした。その落胆し、憔悴した姿は、今もって胸奥に焼きついて離れない。その方々を私は全魂をこめて激励したことを記憶している。
 台風から約一か月後の十月、水難死者の追善法要が厳粛に行われた。総本山から当時の重役、高野日深尊能師が来てくださったのをはじめ、約二十人の御僧侶が列席されている。場所は狩野川のほとり、千歳橋のたもとであった。雨のなか、約二千人の方々が参列された。その折には、御法主上人の御内意で、学会員ばかりでなく水難死者九百五十人全員に対しての合同の追善供養が行われている。私はその広大な御慈悲に深く感動したものである。
 また法要のさい、千歳橋のたもとには供養塔も建立されたが、昭和四十五年頃、道路の拡張工事が行われるまで存在したと聞いている。ともあれ、田方の方々はこうした大きな試練をも力強く乗り越えて、今日のすばらしい発展を築いてこられたわけである。
4  こうした災難や事件があったときに、私がいつも残念に思うことは、御本尊を疑い、退転する人が出ることである。幸せになるために信心しているのに、なぜこのような災難に出あうのか。どうして遭難して死ぬようなことになるのか、等々の疑いを起こし、信心を捨てる人がいる。また、病気になったり、不幸に見舞われ、退転する人もいる。
 しかし、人生において災難や不幸は大なり小なりあるものだ。信心をしているからといって難がないということはない。生身の人間であるし、現実の社会のなかで生きている以上、病気もない、事故もない、つねに平穏な人生である、ということはありえない。むしろ、仏法の目からみれば、信心ゆえの三障四魔や宿命転換のために難はかならずあるものである。
5  なにごとにあっても、試練、鍛えが大事である。とんとん拍子の、順風満帆の人生などありえない。もし、あったとすれば、人間的にも鍛えのない弱々しい生命となってしまうであろう。あまりに恵まれすぎ、幸せいっぱいの環境で育った子供は、大人になっても逆境に弱く、甘えの人格となってしまう。いわんや根本の信心にあっては鍛えがなくてはならない。
 その意味で、信心の途上で遭遇する災難、事故等は、一歩深くみるならばすべて信心を深め、強固にするための鍛えともいえる。三世永遠にわたり崩れざる福運を築くための試練となっているのである。
 信心にしか、成仏の道はない。信心を強固にする以外に永遠なる幸福も築きえない。ゆえに、災難や事故等にあって、信心を失ってしまうことほど無価値なことはない。それまでどんなに強盛に信心をしてきたとしても、すべて水泡に帰してしまうことになる。なにごとがあっても、そのことに一喜一憂して御本尊を疑い、退転していくような信心であってはならないと申し上げておきたい。
6  財産が多くなったとか、職場などで勝利したとか、生活や人生でのさまざまな喜びはあるだろう。もちろん、それらは喜ばしいことではあるが、永遠の幸福からみれば小さな幸福である。大事なことは、永遠の幸福を開きゆく信心を、どこまで貫き通せるかである。
 どのような社会や世の中になり、人生にどのようなことが起こっても、それらをすべてつつみこみ、見下ろしながら、師子王のごとき悠々たる境涯で進んでいただきたい。そして信心強く「法」のため、「人」のため、「社会」のために貢献していく人生こそ、もっとも幸せな人生であると確信して、よき人生をともどもに歩みぬいていただきたい。本日お会いできなかった田方の同志の方々に、くれぐれもよろしくお伝えいただきたい。

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