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タイ国立メージョー大学名誉博士号授与式…  

2006.7.3 スピーチ(聖教新聞2006年下)

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1  ご臨席くださいました創価大学、女子短期大学の先生方、学生、留学生の皆さま方、本当にありがとうございます。
 思えば、30数年前、イギリスの大歴史学者トインビー博士の強い要請を受けて、私は、ロンドンにある博士のご自宅にうかがいました。
 そこで、迫り来る21世紀を見つめながら、山積された人類の諸問題をめぐり、語らいを開始したのです。
 親子以上の年齢差がありました。〈会見当初、博士は83歳、SGI会長は44歳〉
 トインビー博士は、“あなたとの語らいを後世に残しておきたいのです。これは私にとって実質的に最後の対談となるでしょう”と遺言を託すかのように、一生懸命、語ってくださいました。
 会見には、3人の通訳がつきましたが、それでも追いつかないくらいのスピードで、内容も多岐にわたりました。
 私も真剣でした。博士も真剣でした。一切の妥協はありません。本当の一流の人は、厳しく、そして正しい。
 1972年、73年と2年越し、40時間に及んだ語らいの中で、博士がおっしゃった。
 「あなたは、将来、必ず、世界中の大学から名誉博士の栄誉を受けられることでしょう」と。
 あれから30年を経て、博士の言葉は現実のものとなりました。
 本日の栄えある式典を、トインビー博士が、どれほど喜んでくださっているか。私の胸には、懐かしき博士の慈顔が、思い浮かぶのであります。
2  20世紀の貴国の作家シーブーラパーは、次の言葉を残しています。
 「苦は楽より、人間にとって良き師匠となる」
 楽しいばかりでは、人間は鍛えられない。苦しみこそ、人間を成長させる“師匠”なのです。
 同じく20世紀の貴国の文化の指導者ルワン・ウィチット・ワータカーンは言いました。
 「強い意志のない人生は、価値のない人生である」
 学生の皆さんも、同じ理念で、強くまた強く進んでいただきたい。
3  自給自足できる平和国家目指し
 先日(5月26日)、まことにうれしいニュースがありました。
 私たちが、心から尊敬申し上げるプーミポン・アドゥンヤデート国王が、国連から第1回の「人間開発貢献賞」(国連開発計画)を、晴れ晴れと受賞されたのであります。
 国王は、「自給自足のできる平和国家」のビジョンを明快に掲げておられます。
 そして、そのための経済の哲学と新理論を提唱されて、人類の最重要の課題である食糧問題の打開に、いち早く取り組んでこられました。
 その偉大なる御業績が、改めて国際社会から高く評価され、賞讃されたものであります。
 私は光栄にも、3度にわたり、プーミポン国王を、バンコクのチトラダ宮殿に表敬させていただきました。〈1988年2月、92年2月、94年2月〉
 国王と私は、ちょうど同年齢です。国王からは、「同じ年齢同士として、励まし合えることがうれしい」とのお話もいただきました。
 英邁なる国王の御在位60周年、そして、このたびの御受賞を、心よりお慶び申し上げます。
 貴・国立メージョー大学には、プーミポン国王も訪問されております。
 そして、この国王の理想を真剣に体現され、貴国の農業の大発展をリードし、幾多の英才を育成してこられたのが、本日ここにお迎え申し上げた、高名な農学者であられるテープ学長であり、貴大学の諸先生方であられます。
 私たちは、最大の敬意と感謝を表したいのであります。
4  卒業生が名学長として活躍
 貴大学のある麗しき大地は、古来、タイ語で「百万の水田」という名の王国が栄えた、豊かな実りの楽土です。
 このタイ北部における農耕の起源は、人類史的にみても、最古に近いという研究があります。
 その豊穣なるチェンマイの天地にあって、貴大学は、タイ最古の伝統を誇る農業教育機関として、崇高な歴史を刻んでこられました。
 その名門大学より、最高に意義深き「管理学」の名誉博士号を賜り、これほどの栄誉はございません。まことに、まことに、ありがとうございました。
 栄光の貴大学は、1934年、北部農業師範学校として、48人の学生から出発されました。大学の建設に最初、どれほどの忍耐と努力が必要であったか。創価大学の創立者として、私もよくわかるつもりです。
 その栄えある1期生で、のちに母校の学長となられたのが、歴史に名高い、亡きウィパート・ブンシー・ワンサーイ先生でした。
 この1期生の名学長は、学生たちを心から励まし、勇気と希望を贈られました。そして、恵まれない地域の開発に最優先で取り組み、道を開いていったのです。
 この学長は、退職してからも、各地で奮闘する教え子たちを激励に回り続けました。まさに「人間教育者の鑑」として、私は涙が出る思いで命に刻みつけております。
 「創価教育の父」である牧口先生、そして戸田先生もまた、教え子のことをだれよりも大切にする教育者でありました。
 創価大学の先生方も、学生に尽くしゆく偉大な教育者であっていただきたい──そう念願しています。
 なお、わが創価大学も、草創のキャンパスに勇んで集った1期生、2期生、3期生を先頭に、卒業生が、あの地でもこの地でも、使命の道を雄々しく切り開いています。
 アメリカ創大生も、決然と活躍を開始しました。世界からお迎えしている留学生も、立派に光り輝いております。本当にうれしい限りです。
5  哲学性が根本
 敬愛する貴大学には、民衆奉仕の尊き開拓精神が漂っております。
 70年の歳月を超えて、貴大学は、気高き教育哲学を掲げ、英知と忍耐、そしてまた仕事への挑戦の心を鍛え、深き道徳性の光る指導者を陸続と育成してこられました。
 こうした哲学性や倫理性を見失ってしまえば、どれほど高度な科学技術が発達しても、人類の平和と幸福は確立できません。
 この一点がわかるかどうか。それが未来を開くための重要な鍵といえましょう。
 だからこそ、確固たる人間教育が絶対に不可欠なのです。
 この点について、私は新しく発刊されたロートブラット博士との対談集でも論じ合いました。博士はノーベル平和賞を受賞した大科学者です。
 これは、まさに博士の“最後の叫び”となりました。〈ロートブラット博士は昨年8月、96歳で逝去。今月、対談集『地球平和への探究』(潮出版社)が発刊された〉
6  貴大学の卒業生たちは、母校のことを、誇り高く「人生の大学」と呼んでいます。自分が育った“魂の大地”への感謝と責任を、決して忘れない。素晴らしいことです。
 卒業生たちが、人々のため、社会のために労苦を惜しまず、友情と協調と連帯を広げながら、誠実に貢献してこられたことは輝かしき歴史です。
 私は、その伝統を調べれば調べるほど、心からの感動を覚えました。
7  恩を返さぬ者は最も卑しい
 きょうはアメリカから、著名なエマソン協会のワイダー会長も出席してくださいました。
 信念の哲学者エマソンは、痛烈に叫びました。
 「最も多くの恩恵を施す人は偉大である。多くの恩を受けつつ、その一つをも返さぬ人はいやしむべきもの──宇宙に於ける唯一のいやしむべきものである」(志賀勝訳『エマソンの言葉』西村霞店)と。
 恩を知らない。恩を忘れる。名声や権力を得た人間の多くが、傲慢という毒に蝕まれてしまう。
 エマソンによれば、忘恩は、宇宙における最も卑劣な悪行なのです。
 ともあれ、恩を忘れることなく、正義の哲学を貫き通すことこそ、正しき生命の軌道です。
 ワイダー会長も、偉大な探究と行動に邁進されて、亡き母上への報恩を果たされています。
 エマソンは“傲慢な者に戦い勝つ、鋼鉄の心を持った正義の人物よ、出でよ!”と、強く待ち望んでやみませんでした。〈1844年2月、ボストンでの講演「若きアメリカ人」〉
 傲慢な者と戦ってこそ本当の指導者です。
8  「7・3」の誉れ
 私の師である戸田城聖先生は、貴国をはじめアジア諸国を苦しめ抜いた日本の軍国主義と戦い、2年間、投獄されました。
 きょう7月3日は、恩師が出獄した記念の日であります。
 この意義深き日に拝受した栄誉を、私は、わが「人生の大学」そのものである戸田先生に、謹んで捧げさせていただきたいのであります。
 思想家でもあった、先ほどのルワン・ウィチット・ワータカーンの言葉に、こうあります。
 「人間が、他の動物よりも高い状態にいることができるのは、ただ一つの理由だけである。それは、人生の苦難と戦うことである。勇気を持って、試練に立ち向かうことである」と。
 善のため、正義のために、あえて苦難と戦う人間こそ尊い。
 私もまた、きょうよりは、貴大学の名誉ある一員として、わが愛する創大生たちとともに、いよいよ縦横無尽に行動し、「正義の勝利の讃歌」を高らかに謳い残しゆく決心です。
 貴大学の花は、インタニンという名花だと、お聞きしました。〈百日紅(さるすべり)の一種〉
 この、まことに尊貴にして強靱なる花のごとく、貴大学が、ますます鮮やかに、爛漫と、人材の花また花を咲かせゆかれることを、心の底からお祈り申し上げ、私の御礼のスピーチとさせていただきます。まことに、ありがとらございました。

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