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日蓮大聖人・池田大作

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1 古今のロマン――青春の日の読書  

「希望の選択」ディビッド・クリーガー(池田大作全集第110巻)

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5  "この本が私を変えた"と言える人は幸福
 池田 私が青少年に世界の名作を読むよう、折にふれアドバイスするのも、そうした作品を読むことで、世界の人々と共通の教養を共有できるという意義があるからです。
 その点、所長が日本の文学作品を読んでおられることで、日本人のものの考え方や文化への理解を深められていることに、私は感嘆しました。
 日本文学は初め、外国語への翻訳に適さないと言われましたが、優れた翻訳者・日本文学研究者の力によって、世界に広く知られるようになりました。これからも日本の優れた文学作品が、どんどん世界に紹介されるよう願っています。それによって日本という国と日本人が、もっともっと世界中の人々に知られるようになってほしいと思います。
 クリーガー 私もそうあってほしいと思います。日本には多くの偉大な作家がおり、またきわめて豊かな文化があります。ことに、日本の"美"の概念は深遠です。良書はその著者から世界に献呈される贈り物、一つの魂から他の魂への贈り物であると、私はいつも思ってきました。良書を読むことが私の魂を育み、私に歓びと希望をあたえてくれることを実感しております。
 池田 本当にそのとおりです。私も自分の経験から、所長のご意見にまったく賛同します。
 読書は著者との対話です。古今東西の優れた人と対話するのです。日本の中世の吉田兼好という人は『徒然草』で、読書を「見ぬ世の人を友とする」行為だと述べています。今、所長が「読書で先人から学んだ」とおっしゃったことと同じです。
 しかもそれは、自分自身と対話することでもあります。すなわち自己省察です。自己省察は深い人間性の涵養、人間としての成長に欠かすことはできません。それは地中に植えられた種が、長い時間を経て芽を出し、枝葉を茂らせ、花開かせるように、その人の人格を大きく育み、豊かなものとしていくのです。"この本が私を変えた"といえる体験をもっている人は、幸福というものの意味を深いところで理解している人です。
 情報化社会が進めば進むほど、その洪水の中で溺れて自己を失わないためにも、自己の内面に変革を起こす読書が求められます。私は、読書は自己を確立するための戦いである、と考えています。つねにみずからの精神をみずみずしいものにたもっておくための、不断の挑戦なのです。
 クリーガー 読書の楽しさや、読書によって視野が開かれていくことを発見する若者の数が、まだまだ少ないことは、悲しいことです。私は、会長が言われた「自分自身との対話」という表現が好きです。読書は、新しい考え方を提供することで私たちを刺激し、また私たちが持っている旧来の思考形態に疑問をいだかせることにより、この「自分自身との対話」への「導火線」となるものです。
 読書によって、私たちは、国境を乗り越え、取り除くことができるのです。読書は、世界市民に通じる、大切な道なのです。

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