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伝統と近代化について  

「美しき獅子の魂」アクシニア・D・ジュロヴァ(池田大作全集第109巻)

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10  ジュロヴァ なるほど。一つお聞きしたいことがあります。黒川紀章氏の建築的・都市計画的作品の基盤にある哲学についてです。それは、今日の世界において支配的になっている“機能的な建物”から失われてしまったヒューマニズムを復権させるのでしょうか。黒川氏の意欲的で創造的な考え方は、非常に魅力的です。なぜなら、氏は、みずから名づけた「文化間主義」の現代にあって、人間と自然、人間と科学技術、人間と歴史の間をふたたび結びつけたいと望んでいるからです。
 池田 黒川紀章氏の国際的な活躍には目を見張るものがあります。最近の例では、一九九三年に建てられたパリのラ・デファンスのパシフィック・タワーが有名ですね。氏の建築はつねに挑戦的であり、そのつど、時代的課題にも果敢に取り組んでおられます。建築だけではなく、書物やさまざまなメディアでも、積極的に発言されています。
 氏は、その活躍の最初期に、メタボリズムという考え方で、さまざまな提案や作品を発表しています。メタボリズムとは「新陳代謝」の意味です。この言葉から連想されるように、生体のイメージが意識されています。そこに、東洋的な生物と無生物の「共生のモチーフ」を見ることもできるでしょう。ただ、このメタボリズムの運動は、日本が経済成長の上り坂を高速で上昇していた時に全盛を迎えたゆえに、テクノロジーに対する信頼が強く意識されたものである、との指摘もしばしばなされるところです。
 メタボリズムに対して、それは、あまりにテクノロジーの未来に楽観的すぎる、と批判する動きが、イタリアの建築家たちから生まれました。たとえば、一九七〇年代終わりのレンゾ・ピアノ氏のポンピドーセンターですが、一見、メタボリズムとよく似て、テクノロジーを全面に押し出した形をとりますが、全面的に押し出したがゆえに、テクノロジーの限界を予見させるようなものに仕上がっています。
 ピアノ氏の作品は、その後、構造も、素材も、非常に軽やかなものに変わっています。鳥の羽根を模した関西国際空港のターミナルビル、自然を模したIBM巡回パビリオンなど、自然からの影響を受け、それによって自分の立脚点である建築の概念をも変えていこう、という意欲が見受けられます。
 いずれにしろ、今後の建築は、伝統と革新、自然と人工、民族的要素と国際的要素などの調和を図ることが必要です。そのためには、二元論的対立をこえゆく仏教の「空」の立場が大きな意味を持ってくると思います。
 ジュロヴァ 「レトロ(古風なもの)、伝統的なもの」の流行と、「未来学」への高まる関心――一見、矛盾する現代の二つの流れは、人々の失われた調和へのノスタルジーと、未来へ逃れたいとの願いを裏づけるものです。現代人が、苦闘しつつも根気強く、新しい文化を模索しているのは、おそらく、何とかして、この二つの調和を図ろうとしているからでしょう。

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