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日蓮大聖人・池田大作

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「美しき獅子の魂」アクシニア・D・ジュロヴァ(池田大作全集第109巻)

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2  人類史の黎明期から、東と西を結んだ「シルクロード」の「西」への重要な拠点となり、「文明の十字路」であり続けたブルガリアは、「極東」の日本に生まれた私にとって、ロマンと憧憬の国であります。
 美しき風土を擁し、スラブ世界の広大な文明圏の淵源となったこの国は、一面、歴史において、長きにわたり外国の支配下に置かれるという試練を乗り越え、獅子のごとき「強靭な精神」を有しておりました。その「美しき獅子の魂」に、私は、最大の敬意をいだいていたのであります。
 一方、「シルクロード」の「東」、日本を含む東洋文明の基盤は、仏教、なかんずく大乗仏教であります。仏教の創始者、・釈尊は、仏典で「獅子王」と呼ばれ、その言説は「獅子吼」と表記されております。私は大乗仏教の精髄、日蓮大聖人の仏法に出あい、「仏の大獅子吼」を学び実践するに及んで、「シルクロード」の「西」に位置する「獅子の魂」とも、人類の未来のために「対話」したいとの想いをいだくようになったのであります。
3  かつて、シルクロードは、諸民族の文化と文明が接触し、交流しあう“精神創造の場”であり、仏教者にとっては、大乗仏教が西から東へと伝わった、「ダルマ・ロード」でもありました。現代における「精神のシルクロード」を創出したいとの私の思索が、一九八一年(昭和五十六年)のソフィア大学での講演となったのであります。
 今から十八年前の、その年は、私の最初のブルガリア訪問でありました。建国千三百年を祝う式典、スラブ文字をつくり出したキュリロスとメトディオスにちなむ、「文化の日」の行事に出席し、その折、ソフィア大学での講演では、「東西融合の緑野を求めて」(本全集第1巻収録)と題して、ブルガリアの偉大なる文化と精神への、私の「視座」を表明させていただきました。
 翌八二年四月のこと、SGI(創価学会インタナショナル)の開催した「第一回中部青年平和文化祭」で、私は、長年の念願をかなえてくれる人物に出会ったのであります。ソフィア大学教授として、先年の私の講演もお聞きいただいた、ジュロヴァ博士です。博士は、「スラブ・ビザンチン研究所」の所長として、まさに、ブルガリア民族の精神文化を熟知されている碩学であります。
 博士との対話は、必然的に、「東」と「西」の「獅子の魂」の由来と、内容への洞察から始まりました。第一章では、ブルガリアの宗教的基盤をなす、東方キリスト教と古代からの民族宗教を掘り下げております。とくに、日本の読者にとっては、これらの宗教を学ぶことは、ブルガリア文化とその「魂」を理解する鍵となりましょう。
4  第二章では、博士の質問に応じて、東洋と日本の文化の精神的基盤をなす大乗仏教を、日本への仏教到来から、鎌倉時代の日蓮大聖人まで論じました。東欧を含むキリスト教文明圏の方々が、仏教を理解する上で役立つことでしょう。
 相互の思想的基盤を確認しあった両者は、第三章と第四章で、「人間」のつくりだす「文化」に焦点を当て、言語、音楽、芸術、文学、写本、さらに、家庭、女性論、近代化の課題を取り上げました。
 第五章で、「生命の世紀」である二十一世紀に向けて、「獅子の魂」は何を語り得るか、地球的問題群、グローバル化の席巻する動乱の世界において、「精神のシルクロード」を、いかにして創出しゆくことができるか――その課題を、教育、宗教、文化交流、そしてブルガリアと日本の使命へと、展開していきました。
 博士と私の思索のプロセスが、読者の方々にとって、希望の未来への「羅針盤」になればと念願しております。
  一九九九年十一月三日 池田 大作

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