Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

第七章 「地球文明」の創出――平和への…  

「21世紀への選択」マジッド・テヘラニアン(池田大作全集第108巻)

前後
13  「文明の衝突」論が対立をあおる懸念
 テヘラニアン そのとおりです。ただこのように観てきたうえで、なお一つの問いが残ります。
 それは、なぜハンチントン教授のテーゼがかくも世界中の注目を集めるにいたったのか、という点です。
 池田 私も教授の論文の内容そのものよりも、国際社会における注目度の高さこそが、この問題の根深さを物語っているように思います。
 テヘラニアン そこで、私なりにその理由を考えてみたのですが、大要、二つの点があげられると思います。
 第一には、昔からの偏見が根強く、それがなかなか死に絶えないということです。
 すなわち、民族の多様さが特徴であるアメリカ、ロシア、イラン、イラクのような国々の政治体制は、国民の団結を強めるためにしばしば外敵を必要とします。それだけに、目に見える外敵がいない場合は、どうしても新たに敵を想定しようとする傾向が強いのです。
 ハンチントン教授は、東と西の両洋に敵をもうけようとする人々にとって、まことにつごうのよい壮大な理論を提供しました。
 その結果、教授の見解はアメリカはもとより、皮肉なことに、中国やイスラム諸国の極端な政治主義者たちの間でも支持者を得ることになったのです。
 池田 ハンチントン教授の理論が、排他的で攻撃的な立場をとる人々によって集団間の対立感情をあおるための格好の言説として援用されていく――そこに私は、大きな悲劇を感ぜずにはいられません。
 博士も以前、こう論じられていましたね。
 「ハンチントン氏の問題のとらえ方は、かつて、過去の古い時代の脅威であったものを復活させただけなのである」
 「憎むべき敵が欲しければ、どのような形にでも作りあげることは可能なのである。しかし、このようなやり方で敵をつくりだそうとすれば、アメリカ合衆国のような多民族、多宗教の社会をたがいに『対立する文明』への忠誠という枠組みによって分断してしまう危険をおかすことにもなるのである」(「聖教新聞」一九九四年六月二十二日付「世界の眼’94」)と。
 テヘラニアン そうでした。
 もう一つ、教授の論文が注目を集めた理由として考えられるのが、彼の説がアメリカの外交政策通の一部で好評を得たという点です。そこで世界の他の国々も、アメリカの外交政策立案者たちのこうした戦略思考に注目するようになったのです。
 しかし幸いなことに教授の説に対し、中国とイスラム諸国に対する好戦的な意味合いがこめられていることを警告する良識の声が、アメリカ国内にも多いことを付言しておきたいと思います。
 池田 よく分かりました。「文明の対決」という事態をまねかないためにも、「文明間の対話」を粘り強く進めていくしかありません。この一点に、二十一世紀の人類の命運はかかっていると言っても過言ではないからです。

1
13