Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

5 ストレスを超える法  

「健康と人生」ルネ・シマー/ギー・ブルジョ(池田大作全集第107巻)

前後
3  ストレスは“人生のスパイス”
 池田 博士もよくご存じのように、現在、日本を含めて、アジアの経済が危機に直面しています。また不安定な社会状況にあって、日本でも、中高年の自殺、青少年の暴力行為が目立ってきています。
 ブルジョ そのような社会状況のなかで、たとえば、“すべての病からあなたを救います”というようなふれ込みの治療法が繁盛しているのです。ストレスに満ちた現実を生きぬく力をあたえるのではなくて、逆にそのなかに閉じ込めてしまうような、あるいはいまだ客観的に証明されていないようなタイプの心理療法の流行は、絶対に許すわけにはいきません。
 むろん、ストレスをコントロールするのに役立ち、建設的な方向へと導く心理療法があることは、はっきりと認めたうえで言っていることですが……。
 池田 私もまったく同感です。
 “本物”と“にせ物”を見抜く知恵をもたなければなりません。断じて、“にせ物”にひっかかってはなりません。言葉巧みな宣伝に乗せられては、不幸におちいってしまいます。
 博士が警告されているとおり、みずからストレスと闘う力を強化するのではなく、怪しげな療法などによって、苦しみから安易にのがれようとさせるからです。苦悩は逃げようとすればするほど、ますます増していくものです。
 ブルジョ そのとおりです。セリエの重要な業績は、ストレスのプラス面を指摘したことです。彼は、「ストレスはそれ自体、病気でもないし、必ずしも病気の原因になるというわけでもない」と言っています。
 ストレスのプラス面は、自分自身を外部の脅威から守るために必要な活力を結集し、創造力を発揮する点にあります。
 池田 セリエ博士は、ストレスを“人生のスパイス”とも言っておりますね。ストレスを楽しむ悠々たる境涯というか……。
 たしかに、一時的には、酒を飲んだり、カラオケに行ったり、さまざまなレクリエーションも効果的でしょう。しかし、根本的にはストレスをスパイスにできるように生命力を強化し、創造力を発揮しゆく人生を開拓することです。
 ブルジョ 人間は、公正と平和がいきわたったユートピアに住んでいるわけではありません。現実社会は不正と不和、争いに満ちています。その厳しい現実を生きぬくことを学ぶ必要があるのです。
 池田 私が対談した著名な生物学者のルネ・デュボス博士は、「心配のない世界でストレスもひずみもない生活を想像するのは心楽しいことかもしれないが、これは怠けものの夢にすぎない」と述べています。
 さらに、「危険のまっただなかで伸びていくことこそ、魂の法則であるから、それが人類の宿命なのである」(『健康という幻想』田多井吉之介訳、紀伊國屋書店)と続けています。博士の考えとも一致します。
 危険のまっただなかで、魂を鍛え、人格の陶冶のために戦いぬくことこそ、ストレスへの最大の対処法ですね。
 ブルジョ われわれの状態が不条理であっても、戦争を平和に変えていくための努力を重ねていくことはできるし、むしろ、そうすべきです。公正と平和は、自由、平等、友愛と同じように、決して完全なかたちで達成されることはありませんが、その理想に近づくために少しずつでも、毎日、歩みを進めることに人生の意義はあると思います。
 池田 セリエ博士は、みずからのガンと闘った経験をもとに、次のようなことを勧めています。
 第一に、恨みや怒りはストレス耐性を低下させるから、尊重、思いやりに変えること、第二に、人生の目標をもつこと、第三に、他者に尽くすことが、そのまま自分にもプラスになるような生き方をすることをあげています。
 このような生き方こそ、仏法で説く菩薩道です。菩薩は、人類の平和と公正な社会建設のために、人生の目標を定めて、生きぬきます。他者への怒りを慈愛に変え、貪欲を公正な知恵でコントロールし、ストレスを生命力強化のスパイスとして、この人生を“遊楽”していくのです。仏法では、このような境涯を“衆生所遊楽”と説いています。
 ブルジョ 公正と平和の実現のための日々の建設作業には、活力、自己コントロール、創造力、英知、忍耐力が欠かせません。
 繰り返しになりますが、戦争と不公正を完全に避けることはおそらく不可能でしょう。しかし、現状を変えることはできるし、われわれにはそうする責任があります。少なくとも、それを変えようとする努力を続ける責任があります。
 池田 全面的に賛同します。
 ブルジョ SGIの皆さんおよび会長ご自身、長年にわたって国連の諸機関と密接に協力されてきましたが、SGIのリーダーとして会長は、ユネスコ憲章の前文に述べられた、「戦争は人間の心の中に生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かねばならない」との言葉に賛同され、支持されているとうかがっております。
 池田 そのとおりです。いかなる悪条件にもゆるがない確たる内面世界――心の中に“平和の砦”が築かれてこそ、“恒久平和”の道を開きうるのです。
 それが現今、国連で主張されている「人間の安全保障」を可能にする王道である、と私は考えています。

1
3