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ペレストロイカの本質と「新思考外交」  

「21世紀の人権を語る」A.デ・アタイデ(池田大作全集第104巻)

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1  池田 二十一世紀を志向し、「人権の闘士」として輝ける足跡を残されたアタイデ総裁は、二十世紀をどのように位置づけられますか。
 アタイデ われわれが生きてきた今世紀の民衆は、みずからの生存に対する最も激しい変革を経験してきました。私は、急速に変化しているこの時代を、「光の世紀」と名づけたことがあります。
 池田 今世紀の人類は、二つの大戦の苦渋を味わい、社会主義の興亡を経験しました。この激動の世紀とともに生きてこられた総裁にとって、「光の世紀」という言葉には、深い思いがこめられていると思います。“光”のごとく過ぎ去った二十世紀は、残念ながら、世界の多くの民衆に、“光彩”ばかりではなく“暗闇”をもたらしました。今世紀は、いまだかつてない「戦争の世紀」であり、未曾有の人権が抑圧された「抑圧の世紀」でありました。核の脅威や地球環境の悪化など、人類全体の生存を脅かす諸問題が噴出してきた二十世紀を、「メガ・デス(大量死)の世紀」と名づけた学者もいます。
 それゆえに、目前に迫った二十一世紀を、太陽のごとく人間主義に光り輝く「人権の世紀」にしたいというのは、人々の共通の願いです。
 アタイデ 池田会長が、創価学会インタナショナル(SGI)の崇高な宗教性を基盤に、静かに推進される戦いは、皆が待望するものであり、他に比類のないものでしょう。
 私は、今世紀に池田会長とミハイル・ゴルバチョフ氏がなしとげた業績を記しとどめたいと思います。というのも、お二人は、哲学・社会・政治に対する鋭い洞察と思考力をもって、世界を舞台に貢献されているからです。
 池田 恐縮です。ゴルバチョフ氏とは、これまで何度か対話を重ねてきました。氏は、アタイデ総裁と同様、“行動の人”です。みずからの地位に安住することよりも、人類の未来のために尽くしてきた。空前の革命的な「改革」を行い、冷戦の時代を終結させ、地球の新時代を開いた傑出した人物であることは、間違いありません。
 アタイデ 一九九二年、ゴルバチョフ氏が、ブラジルを訪問された折、わが文学アカデミーは、その功を称えて「最高栄誉賞」を贈りました。式典では、私みずから議長を務め、アカデミーを代表してスピーチを行いました。「あなたは人々が善意の心から望んだ平和のために、比類なき勇気をもって戦った。……あなたはたんなる国家元首ではなく、希望の回復者であり、自由を求める現代の民衆の愛のなかから生まれた人である」と。
 ゴルバチョフ氏は、受賞にあたってこうあいさつしました。
 「私は私自身の名をあげようとは思いません。私はすべて、私たちの子どもたち、孫たちのために行動したいのです。
 また、アタイデ総裁のすばらしい言葉に感謝します。アタイデ総裁といえば、ブラジルの良心であります。私は、今、これまで以上に多くの責任を感じます。とともに、私には、より以上の理解と支えができたと感じています」と。
 池田 重みのある言葉です。総裁は、ゴルバチョフ氏が進めた「改革」をどのように評価されますか。
 アタイデ 私は、ペレストロイカも「世界人権宣言」の一つの具体化であると考えています。ペレストロイカの本質は、国際化の原理であり、すべての国家が共通の利益を得るために団結することです。もはやかつての国境はなくなり、全世界の人に精神的・物質的協力を呼びかける新たな枠組みが存在しています。主権の概念は変わり、今や、より自由で、より安全で、“愛”がより大きくなるための方法を使うことになるのです。それは、“新たな世紀”の夜明けを告げるものといえます。ゴルバチョフ氏の進めた「新思考外交」は、核兵器廃絶への新しい流れを開きました。
 池田 一九八五年十一月、氏のイニシアチブで、米ソ首脳会談が実現しました。それは先の見通しがたたない状況にあった米ソ関係に、大きな転機をもたらすことになりました。かねてから、米ソの首脳が直接会って、平和への道を率直に語り合うことを提言してきた私にとっても、その実現はじつに喜ばしいことでした。
 その結果、二年後には、史上初の核兵器削減を実現したINF(中距離核戦力)全廃条約の締結がなされたのです。大きな歴史のうねりのなかで、四十余年にわたる東西冷戦のピリオドを打つ役割を、氏は次々と果たしていきました。ゴルバチョフ氏は、過去の指導者がなしえなかったことを、現実のものとしたのです。
 アタイデ ペレストロイカとグラスノスチの後の世界には、広島と長崎が経験した核戦争の悲劇は二度と起きないでしょう。われわれはその悲劇から、対話の力、合意と善意の力、相互理解と連帯の力が、人類を脅かすすべての悪の力に勝利できるという教訓を学んだからです。これによって、未来への不安はなくなったと信じます。
 池田 会長の戦いは、ゴルバチョフ氏がなしとげた偉業に勝るものです。なぜなら、対話による納得の力で、武器がもたらす不安をこの世界から消滅させているからです。
 人類の生の営みは停滞してはいません。平和・友愛・相互理解を確かなものにするという高潔な願望によって、新たな発見への歩みをつづけているのです。
 池田 一九九〇年、初めてゴルバチョフ氏とクレムリンで会見したとき、氏は私にこう語りました。
 「『核のない世界を築こう』『暴力よりも対話を』と提唱したとき、多くの人々は『ユートピア』だと笑いました。けれども見てください。今では、それが現実になろうとしているのです」――。
 氏は、人類の目の前で、核兵器をなくしていくことは可能であるという、偉大な証明をしてくれました。
 平和は人類の基盤です。いったん戦争、まして核戦争となれば、一個の人間の尊厳など瞬時に破壊されてしまうからです。
 アタイデ 二十一世紀には、人類が古代から求めつづけてきた願望が花開くでしょう。この願望を達成することは、人類の哲学、思想、社会そして政治の歴史に、最も重要な転機として刻まれることになるでしょう。

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