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ブラジルの「教育」の道  

「21世紀の人権を語る」A.デ・アタイデ(池田大作全集第104巻)

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3  アタイデ さて、五十年間にわたり、文盲の問題に熱心に対処してきた数多くの研究者の努力にもかかわらず、この問題はひきつづきブラジルの汚点でありつづけ、ブラジルをラテン・アメリカでも最も遅れた国に位置づけています。文盲を根治するためになされた数多くの組織による試みも、問題の大きさの前に失敗に帰しているのです。
 池田 残念ながら、今なお、世界の成人人口の四人に一人にあたる、約十億人が読み書きができないともいわれており、識字率の向上は、最重要課題の一つです。
 ブラジルの識字運動では、『被抑圧者の教育学』等の著者であるパウロ・フレイレ博士が知られております。博士は、たんなる成人識字学習をめざしたのではなく、抑圧され、搾取され、文字を奪われている人々の、対話と学習を通した「人間化(ヒューマナイゼーション)」をめざしました。文字を獲得すると同時に、現実世界を読み取って、積極的に社会に働きかける主体となっていく過程を、博士は「意識化」と名づけております。
 この方法は、例えば三百人の労働者が四十五日間で文字を獲得するほど画期的であったようです。一九六三年六月から、ブラジル教育省は、フレイレ博士の方法で全面的な識字キャンペーンを展開することになります。しかし、この運動は六四年四月一日の軍部クーデターによって挫折しています。
 アタイデ 二十一世紀において、人類の発展は、時代と空間の新たな状況に応えられるものになってほしいものです。それは、指導者、教育者の責務でありますが、そうした発展のために、文化を次世代に伝達しなければなりません。だからこそ、その根底に教育をおいた運動を推進することが、最も大切になってくるのです。とくに文盲への公的な、根気強い取り組みは、その出発点として基本的なものです。
 池田 ともあれ、識字は「人間」らしさを支える核の一つとなるものです。文盲率の高い国では、文字が読めないために就労できなかったり、財産を失ったりするのみならず、母親が農薬を医薬品と間違えて子どもに与えてしまうといった悲劇も起こっており、「教育」こそ人権擁護の大前提であることを痛感させられます。
 アタイデ ところが、政府がきわめて困難な財政状態にあるとき、文化が絶対的に必要とするものは、真っ先に削減される対象となることがあります。ブラジルの継続的な経済危機がご存じのように大きなものであるため、初級から上級までのさまざまな段階の教育が、政府による緊縮財政の被害者となっています。
 池田 開発途上国では、初等および基礎的な教育さえも受けられない子どもたちも、数多くいるという現実があります。従来どおりの先進国から途上国への経済援助も必要なことですが、教育のための国際的な支援の重要性も、自立のために欠くことのできないことです。冷戦の終結という事態は、もはや膨大な軍事費に税金を使うという理由をなくしています。また、先進諸国も不況と失業に悩まされるなかで、人類的な課題――地球環境保全、「教育を受ける権利」などを実現していくために人類に残された選択肢は、各国が軍事費を削減し、その一部を使うことのほかにないと思っています。
 私はかねてから、従来の司法・行政・立法の三権分立というシステムから教育権を独立する「四権分立的」発想に立った「教育国連」設立の構想を主張してきました。
 従来、国連は主権国家の利益が衝突する弊害にさらされてきました。しかし、教育事業は、人権の世紀を築くための根本的な事業であり、国家利益に従属したものであってはならない。私は、「世界人権宣言」の精神を現実のものにしていくために、「人類益」という立場を根本とした「教育国連」の必要性を主張してきました。二つの世界大戦を経験し、多くの地域紛争のなかで、あらゆる悲惨を見てきた私たちが、未来の世代のためになさねばならない最大の事業こそ、「教育を受ける権利」の実現だからです。
 アタイデ そのとおりです。大戦直後、私たちには、教育に関する諸問題が現代の最も深刻な問題であるとの認識がありました。これにたずさわる人はだれでも、現在の国際的なモラルや経済の混乱に起因する困難が、あちこちに待ち構えていることを知っていました。物質的条件のみを考慮して、これらの諸問題を解決しようとするのは危険なのです。

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