Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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結び  

「21世紀への警鐘」アウレリオ・ペッチェイ(池田大作全集第4巻)

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1  結び
 本書を閉じるにあたって、私たち共著者は、個々の発言を比較対照したり、対談の要旨を抜き出したりして、それをもって結論にするといった方法はとらない。それよりもむしろ、私たちが本書で述べてきたことの意味や趣旨について、読者自身で総体的な解釈を導き出していただき、また、それぞれ別個でありながらも互いに関連性をもつ広範な論題について私たちが本書で表明した意見、概念、思想、提案等のすべてを、読者自身の規準をもとに検討し、評価していただくことのほうが、より公平で公明正大であると考えている。私たちがざっと論じてきたきわめて重要な諸問題の、少なくともいくつかに関して、最大多数の関心ある人びとに熟考をうながし、討議を促進するには、それが最良の方法だと思われるのである。その点では、本書が数か国語でほとんど同時に出版されることになっているので、私たちは、展開性のある、そして望むらくは啓発的な見解の交換がさまざまな地域で行われるものと、いくぶん楽観視している。およそいかなる問題も、それがいくつもの角度から考察されるとき、それぞれに異なる様相を呈し、さまざまな取り上げ方が提示されるものであるから、そうした大勢の人びとが参加する討議が行われるならば、私たち自身も、きっとその恩恵に大いに浴することになるであろう。
 経験の示すところによれば、世界の世論は急速に成熟しつつある。いまや人類全体が自らの運命を百八十度転換させると思われる抜本的な選択の岐路に立っていること、したがって共通の運命の分かち合いが不可避になっていることが理解されつつあり、そのため各地の人びとは、人類の諸条件や今後の見通しについての裾野の広い討議に参加することを熱心に望んでいる。そこで、私たち共著者は、いかに現在の人間生活が過去よりもずっと複雑で、当惑を与えるものになっているかの解釈と、こうした共通の運命の改善のために各人が仲間たちとの協力によって何をなしうるのか、または何をなすべきなのかについての決定等に関しては、すべてを読者諸氏にお任せしたい。
2  しかしながら、突出した問題が一つだけある。それは、われわれすべてを至高の努力において団結させるはずのものである。その問題とは、平和の問題である。これは、最大限の注目と鋭い自己分析に値するものでありながら、嘆かわしいことに、そのいずれもがあまりになされていないのである。われわれは、平和が長年にわたる目標であることを広言しながら、日々の生活においては、平和を自らの手の届かぬところへ押しやるようなことをしている。われわれは一種の精神分裂症にかかっており、そのため、われわれが真剣に希求するものと、実際に誘発(ないしは助長)してしまっているものとの間に、無意識の乖離を生み出しているようである。地球の征服者として、使い道を知らぬほど多くの知識をもちながら、われわれはなお、平和裏に生きるにはあまりにも頼りない存在である。われわれ人類は、個人という次元、あるいは地域共同体、国家、民族、宗教といった次元においても互い同士で苦しめ合い、分裂し合っている。さらに、種としての人間と、他のほとんどの生命体や自然界全般との関係も、苦悩と抗争がその特徴をなしている。
 われわれは、自らの内面において、また周囲のほとんどすべての事象との関係において、平和ならざる状態の中で悲惨や恐怖を体験してきた。にもかかわらず、われわれはなお、現状を絶えず悪化させるような行動をやめることができないらしい。事実、局地戦争、軍隊や一般市民の暴力、世界各地での拷問やテロリズム、明白化したもしくは初期的段階の破壊、より大きな荒廃のための科学的準備等によって、わが地球がこれほど深く引き裂かれたことは、歴史上かつてなかったことである。
3  しかしながら、なお現状にも、一縷の希望がないわけではない。あらゆる文化、あらゆる条件をもつますます多くの人びとが、こうした羽目にわれわれをいたらしめた、これまでの途方もない無分別な愚行に気づき始めていることである。すでに各地に現れ始めている、人間のより正常な行動を渇望し、人間的な生活の価値を願望する声は、人類が自らの危険な状況にめざめつつあり、その気さえあれば現在の凋落傾向を逆転できるということの確かな兆候なのである。
 私たちは、本書の論題のほとんどについて、読者諸氏に私たちと見解をともにするように求めるようなことはせず、むしろ私たちの見解を批判し、改善してくださるように願うものである。しかし、こと平和の問題に関しては、私たちと行動をともにし、団結を固め、急速に絶望的になりつつある現況を立て直すために、最大限の助力をお願いしたい。
 私たち共著者は、環境も能力も互いに異なってはいるが、全世界の平和へ向けての方途・手段の探究に最大の精力を傾けている点ではまったく同じである。たとえ諸氏がいかに他の多くの点で私たちと異なる見解に立つにせよ、もし本書を読まれて、平和のために私たちとともに戦おうという気持ちになってさえいただければ、私たちのこの仕事はなににもまして報われたことになり、それ以上の願いはない。
 共著者

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