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日蓮大聖人・池田大作

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“内なる混乱状態”  

「21世紀への警鐘」アウレリオ・ペッチェイ(池田大作全集第4巻)

前後
3  このような分析は、必ずいくつかの基本的な事柄を、われわれの精神にきわめて明確に示してくれることでしょう。まず第一に、技術面・物質面がますます進歩することによって人類の難問題はすべて解決されると信じたり、あるいは世界の不景気もたんに新しい国際的経済体制を設けるだけでそれこそ魔法のように好転できると期待して、盲目的に突進することが、まったくの愚行であることが明らかになるでしょう。
 そうした新しい秩序にしても、多数の人びとが多かれ少なかれ善意でそれを肯定しつづけているものの、それがどのようなものであるべきなのか、またどうしたらそれが実現できるのかは、だれもまだ納得のいくように明確にしてはいないのです。また同様に、他の人びとが主張するようにただたんに軍備競争を管理したり、核分裂または核融合による豊富なエネルギーの新時代に速やかに突入したりするだけで、あるいは、教育──何の教育かわかりませんが──を世界のすべての農村や集落に普及させるだけで、めざす目的が達成できるかもしれないなどと期待するのも、愚かなことです。
 こうした出来事のいくつかは、たしかに多くの建設的な結果も生んでいますし、おそらくそうした結果はいずれ生じることになるでしょう。しかし、たとえそうであっても、多様な人類の危機を解決するうえで特定の事実や手段に本質的に頼る還元主義者的なアプローチは、解決を生むというよりは、むしろそれ自体が問題の一部となるのです。一般の市民は心の中ではこのことを感じており、発表される種々の恩恵にも、その裏には前もって見積もることがほとんど不可能な犠牲や欠陥が隠されているのではないかと、不安に思っています。人びとが今日行っていることは、事実上、人類の苦境の原因に対処するというよりは、むしろその苦境の徴候や表面化した姿に対処しているにすぎません。それゆえに、現在の行動を最後までつづければ、おそらく、激しい衰退の渦巻きにますます深く引き込まれてしまう結果になるでしょう。いまこそ、このことを率直に言うべきときなのです。しかし、現在とっている行動や方針・方策がゆくゆくはすべての危機からわれわれを救出してくれるであろうという誤った信念からくる最も深刻な結果は、そうした信念によって、危機の根底にある何か別のもの──実体が掴みにくく、いまだに明確にされてはいないが本質的なもの、人間に内在するものであり、その存在を前提にしなければ理解し難いような病弊を生み出し、それによって人びとの心を支配するほどの大きな何か──が覆い隠されてしまい、そのために人びとの関心が、真の核心的問題からそれていってしまうということです。その「何か別のもの」とは、人間の“内なる混乱状態”のことなのです。

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