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日蓮大聖人・池田大作

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生命の変革へ  

「21世紀への警鐘」アウレリオ・ペッチェイ(池田大作全集第4巻)

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2  科学技術ばかりではありません。たしかに、法制や社会機構の整備、とくに福祉制度の充実によって、失業者や身障者、老人等、弱い立場にある人びとも、厳しい生存競争の中で、最低限の生活は保障されるようになりました。これは、もちろん大事なことであり、弱者が安心して人生をまっとうできるかどうかは、その社会が進んだ社会であるか否かの尺度といってよいでしょう。しかしながら、福祉制度の完備によって物質面での不幸は解消できても、精神面での苦悩は救えません。のみならず、物質的に恵まれた社会ほど、精神的な不安定、不満度が高まるということも指摘されています。日本でも、物質的に困窮していた第二次世界大戦当時やその直後の時代には、精神疾患が少なかったのに、経済的繁栄が実現されるにともなって、急激に精神的な病気が増えました。
 さらに、物質的豊かさ自体、一方では環境の破壊と汚染という弊害を生じ、他方では資源の枯渇という行き詰まりを控えていることは周知のとおりです。この物質的な諸問題については、人類は、あるいは、科学と技術の力によって解決できるかもしれません。エネルギー資源は太陽エネルギーの利用等により、材料資源は循環利用によって、無限性を確保できるようになることも考えられます。しかし、たとえそうであっても、手放しで未来に理想像を描くことは不可能となっているのです。
 ここで求められるのは、人間自身の変革です。それは、たとえていえば、高性能の自動車を手に入れてもそれを乗りこなせる運転技能を身につけなければならない、といったことではありません。高速度で疾駆する車は、同時に恐るべき凶器であり、まかり間違えば棺桶にもなりかねません。また、車にばかり頼って自分の足で歩くことを忘れたならば、肉体的な力の、悲しむべき退化を招くでしょう。こうした事実を正しく弁えたうえでの、モラルと知恵が必要となる、ということなのです。
 全般的にいえば、とくに近世以降の人類の歴史は、自然界や社会制度といった、外なる世界の変革に人類の幸福を左右する根本の鍵があると考え、それのみに眼を奪われてきたといえるでしょう。そして、そのために、人間としての自らの生き方を考えず、自分の内にあるさまざまな心の働きを正しく律していく努力を軽視し、あるいは忘却してきたといっても過言ではないように思います。現代においてとくに重要になってきているのは、この、人間生命あるいは精神の世界の変革と向上への努力です。これを、私たちは“人間革命(注1)”と呼んでいます。

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