Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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八、乾燥化と砂漠化  

「21世紀への警鐘」アウレリオ・ペッチェイ(池田大作全集第4巻)

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2  ペッチェイ たしかに、アフリカの大部分の地域でも、世界の他の地域でも、このさき幾年かのうちに砂漠化が一層ひどくなることを示す十分な徴候が、すでに明らかにみられます。この砂漠化の結果として起こる種々の変化のうち、いくつかは取り返しのつかないものとなるでしょう。進行しつつあるサハラ砂漠の状況は、まさにあなたが述べられたとおりなのです。事実、サハラの砂漠化は、ある地域では、年間五十キロの速度で進んでいます。
 これは、ある程度までは、こうした地域に住む遊牧民たちの文化的態度に責任があります。これらの遊牧民たちは、できるだけ多くの牧畜類を飼うことが、声望を高めることだと考えています。しかし、動物たちは、過度に数が増えると、草木を根元から破滅させてしまいます。
 この状況をさらに深刻にしているのが、農業移住の粗悪な計画です。現在、動物への給水と作物栽培のために、おびただしい数の井戸が掘られていますが、その結果、地下水面が下降し、地表の植物が枯死して、かつては生命を維持させる土地であったのが、いまや砂漠と化しているのです。この自己増殖的な悪循環に対して戦うのは、困難なことです。なぜなら、そこには伝統的信念、身についた習慣、人口の絶対的需要などが結合しており、これに加えて、もたらされる結果には少しも配慮せずにいかなる犠牲を払っても開拓するという、現今の一般的な衝動があるからです。これらすべてが、土地や水の資源管理の重大な失敗という結果をもたらしているのです。
3  池田 砂漠化という、一見、純粋に自然界の異変のように思われる現象を、より深刻に拡大しているのは、人間の自然に対する無認識であるともいえますね。これを改めるには、人びとの生き方を根底的に啓発して改めさせていく必要があります。
 いままでの人間の利益中心主義は、人間のエゴイズムを無制限に拡大しつづけてきました。この内面世界の不毛化が、環境世界の破壊という具体的事実の姿となって現れてきているように思われるのです。
4  ペッチェイ 一方、世界の他の地域では、水不足とは反対に、人間の干渉が生んだ過度の水量が、災厄をひきおこしています。ヒマラヤ山系に住む人びとは、いまもなお薪用や資材用として、樹木を切り倒しつづけています。山林の外皮を消耗させたことが、制御のきかない表面流水を招き、それが、ますます頻繁化し、ますます甚大な被害を与える洪水となって、インドやバングラデシュの広大な下流地域を荒廃させているのです。
 人口増大がもたらす圧力や、すべてにわたってより多くを望む欲求の高まりだけでなく、目先の利得を追求する無計画な近代技術力の使用も、わが地球環境の深刻な退廃化の速度に拍車をかけています。そうした事例は、あなたが挙げられたもののほかにも、まだいくつかあります。たとえば、土壌の塩質化やラテラト(注1)化、工業文明がもたらす土壌の浸食、湖沼の富栄養化、酸性雨、大気中の炭酸ガス煤煙、塵埃などの蓄積、成層圏におけるオゾン層の減少、さらに全般的には環境の汚染、汚濁、破壊などが挙げられますが、これらはいずれも、われわれが、自分のものにできるあらゆる天然資源から早く配当を得ようとして、ひきおこしているものです。
 われわれの生活水準からみて利益のように思えるものも、じつは束の間の価値しかもたず、実際は、かえってわれわれ自身に永久的な損失を課しているのです。
5  こうした無思慮で無分別な行動は、われわれが、自らのもつ力を濫用し、誤用しているところから生じています。したがって、この問題は、主として文化的な問題なのです。経験上明らかなことは、もしこの世界を、実際に力を行使する側の人間──政治家、開発者、専門技術者、官僚、実業家等──に任せてしまったら、われわれは、無防備なままで混乱状態へと直進することになる、ということです。なぜなら、これらの人たちこそ、敏感な生態的・社会的環境に自らの行動がもたらす間接的または遅発的な影響を十分に考えない張本人だからです。技師たちは自己の領域ではめざましい仕事ができるにしても、彼らにもやはり制約を加えなければなりません。
 人間の存在と、それが及ぼす圧力がいたるところに行き渡り、世界の状況がますます荒廃しつつある現在、われわれには、実務従事者の数と同等の数の詩人、思想家、教育者たちが必要です。そして、実務従事者の中では、おそらくわれわれは機械工やトラック運転手、整備工たちはより少なく、農耕者、農学者、潅漑専門家たちをより多く必要としています。
 池田 まさにおっしゃるとおりです。それは、人間の文化すべてについていえることですが、とくに、ここで取り上げた乾燥化、砂漠化、あるいは博士が指摘されたように、その反対のインドなどにおける洪水の頻発という現象は、真剣に考えなければならない点であると思います。なぜなら、砂漠化も、その逆の洪水も、食糧生産に深刻な打撃を与える災害であり、食糧こそ人類の生存を支える最も大切な、かけがえのない貴重な資源だからです。
 何度もいうようですが、どんなに優秀な機械を作り、数多くの自動車を製造しようと、機械や自動車自体は生命を維持してくれません。この生命を支えてくれるのは、米であり、パンであり、魚等です。すなわち、人間以外の生命体です。そうした生命体が栄えることのできる環境条件を守ることは、われわれ自身の生命を守ることでもあるのです。この地球上の微妙な生命連環の一員としての人類には、あらゆる存在に固有の尊厳性を認め、人間と自然との関係を豊潤な調和のとれたものへと変革する義務があると思うのです。
 注1ラテライト=熱帯地方で岩石の風化などによってできる鉄・アルミ分の多い土壌。

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