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日蓮大聖人・池田大作

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自然との和解  

「21世紀への警鐘」アウレリオ・ペッチェイ(池田大作全集第4巻)

前後
2  現在ですらひどく変形され、操作され、汚染されてしまっている世界に、人間がこれ以上無分別な干渉を行うとすれば、そこには明らかに取り返しのつかない、衰退的で不安定な結果が生じかねません。熟慮に熟慮を重ねて作成され、周到のうえにも周到な準備をもって実行に移され、理論的には多数の人びとの安全と安楽を保証するはずの計画や予定でさえも、再考の余地はあるものです。自然システムには自己調整や自然治癒の資質、定常状態を保つ資質が備わっており、それらが変化や危機にさいして柔軟性や適応性を与えているのですが、人間システムは概してそうした資質に欠けています。したがって、人間システムは常に指示され調節されることを必要としています。ところが、各種の人間システムはそれぞれ異なる時代に異なる民族や国家から生まれ、互いに異なる、ときには逸脱すらした目標に沿うように、またそれぞれ異なる論理に従うように設計されているため、それらに対して指示し調節することは、困難なのです。これらの人間システムは、互いに重なり合い、妨害し合い、競合します。そして、常により大規模化・複雑化し、より広く地球上に普及していく運命にあるため、互いに衝突し、崩壊する危険性はますます増大しています。これらすべてが意味するところは、現在の人工的システムの集合体が立て直され、地球上の自然システムと調和し、融合するように運用されなければならないということです。
3  このような、すべてを包括すべき任務を、個々の国家に任すわけにはいかないことは明白です。それはあらゆる国家の、そして適切に組み合わされた国家群または地域群の、共同の責務にしなければなりません。このことを認めるのは悲しいことですが、現在のところ、その目標達成の可能性は非常に薄いのです。また、初期のサバンナに住んでいた裸の未開人や、有史時代の初期に牧草を求め歩いていた遊牧の羊飼いのほうが、たとえ原始的であったとはいえ、彼らの後継者であるわれわれ、つまり純朴さのなくなった核・電子時代の野蛮人よりも、多くの点ではるかにすぐれた自然の解釈者であり、友人であり、仲間でもあったのです。
4  ようやく近年にいたって、地球資源の行き過ぎた開発に対するいくらかの自覚と懸念が現れ始めました。しかし、それとても、多くは誤った根拠から生まれたものです。世界の既成体制者(エスタブリッシュメント)がそのよい実例です。この既成特権階層は、大体において、生物圏で起こっていることを、見て見ぬ振りをしています。そのくせ、化石燃料や特定の原鉱など、再生不可能な資源の主要な蓄えが──またはそうした資源のより開発しやすい鉱床が──枯渇しはしないかと心配しているのです。もしそうなると、経済成長が阻まれかねないからです。それでも、この地球上にきっちりと織られた生命の布地に人間が干渉し損傷したことの累積的なマイナス効果に対してこそ真に関心が払われるべきであるという認識が、一般市民の間に高まっているのは、喜ばしいことです。これは、言い換えれば、人類の運命が世界の遺産である原料の濫用によってよりも、地球のライフ・サイクルの分裂や再生不可能資源と呼ぶべきものの崩壊がたとえわずかでも生じることによって、はるかに深刻な影響を受けうるという事実が改めて意識され始めたということであり、心強いことです。
5  では、これらの考察から、私たちはどのような結論を引き出さなければならないでしょうか。現状を要約して言えば、人類はすでに現段階で自然を慈しみ、大切にし、全力で守らなければならないことを知るべきであるのに、いまなお権勢欲や浪費ぐせ、気まぐれや貪欲さなどに心を奪われている、ということになりましょう。人間は自然界を荒廃させ、毒し、汚濁させています。自然の心臓部である原生地域を損傷し、その宝の箱を略奪しています。自然力の基本法則を、淘汰や多様化によって侮辱しています。自然のいくつもの生態系を操作し特殊化させることによって、それらをつぎつぎに弱めています。ところが、人間の無分別で身勝手な行動はやがて裏目に出て、その生活の質を低下させ、心身の統一性と適合性を徐々に弱め、そのため人間が現在受け取っている物質的恩恵に対して、あまりにも高価な代償を支払わされるはめになるでしょう。われわれは、そのようなことが果たして起こるのかどうか、またそれがどのようにして起こるのかを知らずに、いま述べたようなことや、その他もろもろのことを行ってきましたが、やっと今日になって、自分たちの行動がいつかは悲惨な結末を招きかねないということが、一部の人間にわかり始めてきました。しかし、それを自覚するだけでは不十分です。必要なのは、このままいけば間違いなく自然と衝突するということ、そして、もし針路を変えなければ惨敗者となる運命にあるということについての、完璧な認識なのです。
6  かくして、たとえそれが物質革命に対する信頼や現代人が構築した進歩・富裕・福祉・文明等の概念を根底から揺るがすことになるとしても、われわれの現在の見解や姿勢を徹底的に再評価しなければならないときがやってきました。人類が未来に向かって安全に、そして心静かに進むためには、思考上・行動上の新たな指針が不可欠です。わけても肝要なのは、つぎのような考察です。それは、人間が自然と和解し直し、自然との調和を取り戻すことに成功しないかぎり、他のいかなる問題にも適正に取り組むことができず、ましてや解決などありえず、いかなる経済的・社会的発展も不可能であり、いかなる計画も非現実的であり、われわれが子孫に受け継がせたいと願ういかなる遺産も有効たりえず、事実、何をやってもそれは永続的なものではありえないということです。自然との和解・調和こそは、人間開発(ヒューマン・デベロップメント)と並んで現代の基本的な絶対必要事項。であり、またこの小さく傷つきやすい惑星上で現代人が強大化した力と比類なき責任をもつ地位にのし上がったことを考えるときに、そこから真っ先に得られる結論の一つでもあるのです。その他のあらゆる考察は、せいぜい補助的なものでしかありえないでしょう。

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