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日蓮大聖人・池田大作

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見せかけの希望  

「21世紀への警鐘」アウレリオ・ペッチェイ(池田大作全集第4巻)

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2  この科学知識を日常生活に適用することから生じた技術革命についても、同様な考慮がなされなければなりません。現在、技術革命の最も強い動きが、富裕階層の地位と権力と威信の増大に向けられていることは、疑うべくもありません。しかし、技術は、その影響力がきわめて広範であるため、世界各地の人びとに──その配分はなお非常に不均等であるものの――空前の福利と安楽を授けることに成功し、同時に、その奇跡的な能力についての、見せかけの希望を起こさせています。豊かな新時代の到来への期待、また人類のほぼあらゆる諸問題が技術力によって容易に解決できるという過大な期待が、われわれの現実感覚をまったくといっていいほど曇らせ、成長の神話を生み出し、道義心を衰えさせ、仕事に対する態度を変えさせてしまいました。これが、現在の危機の大きな原因となっているのです。地平線上にかすかに現れてきた技術上のさらに新たな突破口は、人びとに絶えず明るい望みを与えています。しかし、そうした望みは、結局は儚い夢にすぎなかった、いやそれどころか罠でさえあった、ということになるかもしれません。われわれは、たとえば地球の地殻や海底の奥深くに伝説上のエル・ドラド(黄金の国)を掘り当てるとか、遺伝工学を用いて植物や動物、そして人間さえも質的に改良するとか、人間の活動をすべてロボット化、情報化して軍事抗争における中間準備地域を大陸間の空所や高層大気圏に移動するとかのさまざまな方法によって、自らの運命を変えようという気持ちを起こすかもしれません。しかし、こうした方法のいずれによっても、無知、不寛容、不平等、不安定、不安感といった、現実に存在する諸問題から逃れることも、また解決することもできません。世界の“問題複合体”はさらに手に負えないものとなり、人間をさらに困惑させていくことでしょう。

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