Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

第九章 新しき「宇宙文明」の…  

「科学と宗教」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

前後
2  「宝塔」――荘厳なる生命の輝き
 ―― 最近、アメリカの科学誌「サイエンス」に発表された学説(「朝日新聞」一九九三年四月三日付)によりますと、宇宙空間には無数の“超微小ダイヤモンド”が漂っており、昨年(一九九二年)一年間の観測だけでも、数十トンにのぼる“微小ダイヤ”の存在が確認されたといいます。
 池田 博士はそのことについて、何か聞かれていますか。
 ログノフ いえ、詳しくは聞いておりません。しかし、宇宙空間には、金や銀などの元素も存在することが知られておりますし、十分に考えられることだと思います。
 池田 そうですか。『法華経』には、金や銀などの宝をちりばめた巨大な塔が、空中に出現する儀式があります(「仏前に七宝の塔あり。高さ五百由旬、縦広二百五十由旬なり。地より涌出して、空中に住在す」)。五百由旬といいますから、現代的には、およそ地球の直径の三分の二もの高さになります。それは「金」「銀」「瑠璃」「硨磲」「碼碯」「真珠」「珊瑚」の“七宝”で荘厳された多宝の塔であり、かぐわしい多摩羅跋栴檀の香りを宇宙全体に放ちます。
 ―― この「宝塔」は、巨大UFOであったと言う人もいますが。(笑い)
 池田 『法華経』の会座で、釈尊は「宝塔」を開くにあたって、現在、過去、未来の三世にわたる「十方の諸仏」を集合させます。そして、「宝塔」の中の多宝如来という仏が、大宇宙に轟くような大音声を発し、釈尊の『法華経』の説法が真実であることを証明するのです。
 ログノフ 宝に輝く巨大な塔、そしてそこに繰り広げられる荘厳な儀式――いったい、これは何を表しているのでしょうか。
 池田 この「宝塔」について、日蓮大聖人は「宝とは五陰なり塔とは和合なり五陰和合を以て宝塔と云うなり」と示されています。
 「五陰和合」したもの、すなわち私たちの生命そのものが「宝塔」であり、無限の可能性をもつ「小宇宙」である。その意味で、「宝塔」の巨大さと荘厳さは、人間生命の宇宙的な広がりと尊厳性を表象しているといえます。
 さらに、『法華経』の全体が開示する究極の法理に、「一念三千」論があります。
 これは人間の“一念”が、森羅万象の“三千”という次元へと遍満し、また全宇宙を包含しゆくという仏の悟りを示すものです。言い換えれば、「宇宙即我」「大宇宙即小宇宙」という真理を示しています。
 したがって、「宝塔」としての人間の“一念”の中に、仏・菩薩も、あらゆる生命的存在も収まってくる。
 この法理を、日蓮大聖人は、「一心法界の旨とは十界三千の依正色心・非情草木・虚空刹土いづれも除かず・ちりも残らず一念の心に収めて此の一念の心・法界に徧満へんまんするを指して万法とは云うなり」と述べておられます。
 ログノフ 仏法では、宇宙との関連のなかで、ダイナミックに人間という存在をとらえている。その点については、私も大いに共感をおぼえます。
3  未知との遭遇“SETI”
 ―― 宇宙は“生命の謎に満ちた空間です。一九九二年から九四年までが“国際宇宙年(ISY)”ということもあって、最近、世界的にSETI(地球外知性探査計画)への積極的な取り組みがなされています。一九八二年には「国際天文学連合」のなかに正式な分科会ができ、今では「宇宙生物学」の一分野となっています。
 池田 日本ではどうですか。
 ―― 日本でも、その分野の主だった研究者を糾合して、「宇宙生物科学会」が結成され、活発に研究が進められています。
 ログノフ 旧ソ連にも、「地球外知性探査」を計画し、実行する国家委員会がありました。ヨーロッパからシベリアまでユーラシア大陸に配備された電波望遠鏡で、同時に受信されるパルス(脈動する電波信号)の検出を試みました。
 しかし、残念ながら現在のロシアでは、この研究を進めるような状況にはありません。こうした巨大事業には、国家的な規模での取り組みが必要です。
 池田 この大宇宙に存在するであろう、まだ見ぬ隣人を探し求め、地球へのメッセージを読み取ることは、人類の一つの夢ですね。
 科学者にとって、こうした探査はどのような意味をもっていますか。
 ログノフ それぞれ立場は異なりますが、一つはET(地球外知性)が実際にいるのかどうかという知的関心であり、もう一つは、人類の文明の未来を理解する手がかりとしての意味があると思います。
 池田 主な手段としては、「電波」の利用になりますね。
 ログノフ 「地球外文明」との接触があるとすれば、初めはもちろん「電波」によってでしょう。地球から最も近い恒星でも約四光年離れていますから、電波による交信で、すぐに返事が来たとしても、八年はかかる。ましてや、既存のロケットでそこまで行くとしたら、十万年もの膨大な時間がかかってしまいます。
 ―― 現実的には、困難が多いわけですね。
 池田 太陽のような恒星も、アンドロメダ星雲のような天体も、それ自体が「電波」を放っているといいますが。
 ログノフ そのとおりです。星から出ているのは光だけではなく、より多くの情報をもった「電波」も出しています。ですから、「電波望遠鏡」を用いることで、正確な星の観測が可能となります。
 私たちは普通、大気の振動を音として感知しますが、それと同じように、宇宙に遍満する電波を受信すれば、「宇宙の音」を聴くことができます。
 ―― 惑星の運行軌道のデータをコンピュータ-に入力して、それを“翻訳”した「宇宙の音」(山折哲雄『神秘体験』講談社現代新書)というのがあるそうです。それを繰り返し聴いていると、鳥のさえずるような音や、風がそよぐような音、さらに蒸気機関車が走るような音までが、鼓膜に響きだすといいます。
 若干、人工的な気もしますが。(笑い)
4  池田 ヴィクトル・ユゴーの詩に、宇宙をうたった次のような一節があります。
 永遠の賛歌が、もうひとつの大気のように
 ひろがりあふれ、大海をくまなく
 おおっていた。世界はこの交響楽に包まれ
 空中を流れるように諧調の中を流れていた。
 わたしは思いにふけりつつこの天空の竪琴に聞きいった、
 海にまぎれるようにこの声の中にまぎれて。
 (「山のうえできいたこと」辻昶訳、『世界名詩集大成②フランスⅠ』所収、平凡社)
 詩人の直観がとらえた宇宙の実相は、万物が声を発する世界であり、“天球の交響楽”が鳴り響く世界です。
 ログノフ いいですね。宇宙との一体感をもつとき、人間には詩心が生まれるのでしょうか。
5  ―― 「宇宙の音」といえば、一九六七年に発見された中性子星(パルサー)は、数百万年ものあいだ“チックタック、チックタック”と鳴り続け、発見者を驚かせたそうです。
 ログノフ 中性子星は、超新星爆発のときにできる星です。質量の大きな星が死を迎えた瞬間に、星の芯がつぶれて、中性子だけの高密度の星が残されます。それが中性子星です。マッチ箱一つの重さが十億トンもあるような星です。
 爆発の瞬間というのは、超高温・超高密度ですから、さまざまな核反応が起きて、種々の重元素や、金や銀、ウラニウムといったものまでもつくりだします。
 池田 超新星の爆発の研究は、先ほどのホイル博士と、その弟子で私が対談したウィックラマシンゲ博士の卓越した業績の一つでした。
 ログノフ 中性子星をめぐって、おもしろい逸話があります。
 一定のリズムで送られてくる中性子星からの信号を、最初に発見したイギリスでは、地球外文明からの通信であると考え、秘密にしておきました。
 池田 「緑の小人」と名付けていたそうですね。
 ログノフ しかし、後にそれはETからの通信ではなく、中性子星から出ている電波であることが判明しました。ETとの交信の夢はかないませんでしたが、中性子星の発見の業績によって、関係者には「ノーベル賞」が与えられています。
 池田 星々の放つ電波が、無数に飛びかう宇宙の中で、“文明のメッセージ”だけを区別して取り出すことは現実に可能でしょうか。
 ログノフ 文明が発する電波であれば、なんらかの規則性をもったものになると考えられます。
 池田 それで、パルサーから出る周期的な電波を、文明からの通信だと信じたのですね。
 ログノフ そうです。実際の観測のなかで、異文明からの電波を見つけることは、それほど容易ではありません。なによりも探査する方向を絞ることができないし、「宇宙人」が使う周波数がわからない。
 しかし、それでも世界中で多くの科学者が、情熱をもってこの問題に取り組んでいます。
 池田 逆に、地球からメッセージを送る場合はどうでしょうか。
 ログノフ 一九七四年、カリブ海のプエルトリコ島にあるアレシボ天文台の世界最大の球面アンテナから、ヘラクレス座の球状星団M―13に向けて、電波によるメッセージを送りました。
 池田 アメリカのパイオニア一〇号、一一号には、カール・セーガン博士の発案した「宇宙人への手紙」が積み込まれました。これは金メッキしたアルミ板で作った「手紙」です。
 また、ボイジャー1号、2号には、「宇宙人へのレコード」も積まれており、ロシア語や日本語など、世界の言語によるあいさつとか、バッハから現代までの音楽などが収録されています。私もセーガン博士とお会いしたとき、そのテープをいただき、記念にとってあります。
 ログノフ ほう、そうですか。カール・セーガン博士は、一九七一年に、わが国の電波天文学者ヨーゼフ・S・シュクロフスキーと二人で企画して、ビュラカン国際会議を開きました。米ソの科学アカデミーによる共同主催で、「宇宙文明との接触」をテーマにしたものです。これには「DNAの二重らせん構造」を発見した、イギリスのクリック博士なども参加していました。
 ―― 日本の学者によって、「DNAの手紙」も考案されています。電波によるメッセージは一回限りですし、金属の手紙といっても耐久年数には限りがあります。しかし、DNAならば、世代を重ねることによって、何百万年でも、発見され解読されるのを待ち続けることができると考えたわけです。
 池田 おもしろい。ユニークです。
6  ETと出会う確率
 ―― 実際に、この宇宙の他の天体に生命が存在する確率は、どれくらいと推定されますか。
 ログノフ 宇宙全体には、十の二十一乗という数の天体があります。この銀河系だけでも、十の十一乗、すなわち一千億の星があり、直径二十万光年もの広がりをもっています。そのうち、太陽のように惑星をもつ恒星は五億個ありますから、単純にいって、生命の存在する可能性のある星も五億個程度あると考えられます。
 ―― そのなかに、人類のような高等生物が住み、文明をもっている可能性はありますか。
 ログノフ おそらく存在するでしょう。というのは、どこであろうと自然の法則は共通であるからです。物理的法則は同じです。化学的な法則も同じです。ですから、生物についても、ある程度同一の化学的・生物学的な構造をとります。
 池田 まあ、だれも太陽系の外の天体に行ったこともないし、見たこともない(笑い)。あくまでも推測の域を出ませんが、生物の身体の形態は、どうなると思われますか。
 ログノフ 地球上の生物は、炭素を含む化合物からできた「炭素型」です。宇宙においても、ある程度、それは共通してくると考えられます。
 しかし、ケイ素は炭素とよく似た性質をもっていますから、熱に強い「ケイ素型」の生物が存在する可能性もあるかと思います。
 気体になりやすい性質をもつ「チッ素型」の生物ですと、空中に浮遊するのに適しているかもしれません。(笑い)
 ―― 「ETはいない」という論陣を張っている学者もいますが。
 ログノフ それは遭遇していないという事実にとらわれすぎています。科学によって、この世の中のすべては説明できるとする人たちにとっては、否定すべきことかもしれません。しかし、学術的にも否定できる根拠は何もないのです。
 太陽が生まれたのは約五十億年前です。今の宇宙が膨張しはじめてから、すでに百億年を超えています。ですから、遠い過去において文明の栄えた星があったとしても、不自然ではありません。
 池田 アメリカのポーリング博士も、地球に似た環境の惑星の多くに生物が発生しており、「それらの生物はその多数が、もしかしたらそのすべてが、地球上の生物と同様に炭素を基本としているように思われます」(『「生命の世紀」への探求』、本全集第14巻収録)と、知的生物の存在も予測していました。
 ログノフ そうですか。ポーリング博士もそうおっしゃっていますか。
 池田 アメリカのドレイク博士は、「地球外知的文明」の存在する数を「N=N*×fp×ne×f1×fi×fc×fL」という方程式で計算しています。この方程式に基づいて、宇宙文明を探そうとする「オズマ計画」は、電波による初の本格的な探査の試みでした。
 ―― ある研究者の試算によりますと、私たちの銀河系には、文明社会が一千万ほど存在します。ただし、生物学的に一つの種が存続する期間はおよそ一千万年くらいとされていますので、人類と同時期に存在している可能性のある文明の数は、十万ほどになるそうです。
 池田 私は、「ドレイクの方程式」に含まれる文明論的な視点に、注目したい。
 恒星の数とか、惑星系をもつ確率などは、自然の法則に基づいて決まりますが、「文明の寿命」は、その担い手の生き方によって異なるからです。
 寿命の短い文明、わずかの期間で滅んでしまう文明では、他の文明と出会うことはない。しかし、何千万年、何億年という寿命を保った文明であれば、相互に出会うチャンスが出てくるかもしれない。
 ログノフ おっしゃるとおりです。
 ロシアの優れた天文学者ニコライ・カルダシェフは、「宇宙文明」の発展を想定して、三つの発展段階を提示しました。まず第一は、その惑星の中心部にある恒星から降り注ぐ、質の高いエネルギーを完全に使っている文明です。
 地球文明はまだ、その段階にも達しているとはいえません。生態系(エコシステム)との“共生”をはかりつつ、いかにエネルギーを有効に利用していくか。人類は今、その岐路に立たされているといえます。
 池田 生態系との“共生”に失敗すれば、第一段階を達成する前に、人類はこの惑星から消えてしまう危険性さえあるでしょう。
 文明の寿命を短く終わらせないためには、第一段階を実現し、さらにより高い発展段階へと、向上しなくてはならない。そうでなければ人類が地球に出現した意義もないのではないでしょうか。
 ログノフ そのとおりです。第二段階は、その惑星の属している恒星系全体のエネルギーを有効に活用するものであり、第三段階は、銀河系全体のエネルギーを生かす「宇宙文明」であるとしています。
 さらに、文明の発展には、たんに使用しうるエネルギー量の増大だけではなく、生態系との共生をはかりながら、それらを有効に利用していくための“情報”が、より重要になってくると私は思います。
 池田 大事なことは、文明の運命を決めるのは、社会を構成する一人一人であり、ほかならぬ人類自身であるということです。
 ログノフ 一つの例をあげるとすれば、高度に発展した文明は、人類と同じく“核エネルギー”の科学的知識をもっていると考えられます。それを原爆などの破壊的な方向に使用するか、あるいは建設的に利用するかは、その文明を担う主体の選択によって決まります。
 ―― そうした課題を乗り越えた文明のみが、永く存続していく。地球の場合も、同じですね。
 ログノフ ええ。そこに文明が存続できるかどうかの分かれ目があります。この地球は、われわれの世代だけのものではありません。むしろ、未来の子孫たちから預かっているものだということを、忘れてはならないでしょう。
 ―― 天文学者の森本雅樹氏は、人間は宇宙に本能的な好奇心をもつ存在であり、本来、宇宙人と出会うくらいまで滅びない文明をつくるようにデザインされている。ところが、近代の科学技術文明は一千年で滅びるようなパターンをつくってしまっているのではないか、と危惧しています。(「宇宙生物科学」一九八八年三月号、日本生物科学会)
 池田 科学技術文明は、“経済発展”や“効率”を第一義とし、あまりにも近視眼的に数値に表れる成果のみを追究してきました。
 ある意味では、そうした文明そのものに破壊性が含まれているといっても過言ではありません。
7  「地球外文明」からのメッセージ
 ―― 将来、人類が自分たちよりもっと科学技術の発達した文明と遭遇したら、それによって地球文明はどうなるでしょうか。
 ログノフ 地球上の現在の科学知識をすべて、二百年ほど前に導入できたと考えてみましょう。それが、人間の解放を手助けしたであろうことは間違いありません。なにしろ前世紀でさえ、人々はずいぶん働いたものです。一日の労働時間は十二時間、十四時間でした。近代の科学技術革命は労働の様相を一変させ、軽減しました。科学技術がいちだんと発達した「地球外文明」との出会いは、地球文明に質的な変化をもたらすと思います。
 ―― 質的な変化とは、具体的には、どのようなことをお考えですか。
 ログノフ 地球資源の節約をもたらします。今日の認識のレベルが、百年前にあったら、五十年前、いや三十年前にでもあったら、私たちはこれほど地球の生態系を破壊しないですんだでしょう。生態系の状況を別のものにできたはずです。いまや、全世界の多くの都市で、生態学上、人間にとって非常に悪い環境がつくられてしまいました。
 池田 カール・セーガン博士も、より高い文明社会から送られてくるメッセージには、「どの方向に文化が発展していけば知的生物が末永く安定して存続できる見込みが大きく、逆にどの方向へそれれば沈滞したり頽廃したり、ひいては悲惨な結果に至ったりするのか、ということも記してあるだろう」(『サイエンス・アドベンチャー』中村保男訳、新潮選書)と、人類の未来への示唆が含まれていることを説いています。
 ログノフ 真に高度な文明は、生態系の保全への、より深い理解と接し方をそなえているはずです。実際、私たちは自然との“共生”がなによりも大切であることを、次第に認識してきました。
 ロシアにおいても、以前は工業生産が最優先されていましたが、今では環境を損なわないで行うべきだという考え方が主流になりつつあります。ですから、本当に高度な文明は、環境保全がどれほど大切か、さらに深く理解しているにちがいありません。
 池田 環境保全、地球生態系との共存のためには、技術革新とともに、自然観・価値観の変革や、欲望の昇華、ライフスタイルの転換といった内面の向上が要求されます。博士のいわれる高度な文明とは、人間の全人性を開花させ、「科学」と「哲学」と「宗教」を融合しゆく、新しい色彩を帯びたものになってくるのではないでしょうか。
 ログノフ そうかもしれません。高度に発達した文明は、必ず“生命を守る”ことの大切さを理解しているはずです。
 ―― ゴルバチョフ氏も創価大学の記念講演の中で、人類の進むべき道を、「最高の価値を“生命そのもの”に置く」ことだ、と強調されていました。
 池田 文明の進化と発展には、その基盤をなす哲学の高まりが必要であることは論をまちません。生命尊厳の高度な思想を根底においてこそ、真に知的な文明と呼べるのです。
 文豪トルストイがいち早く、「現代の科学者ほど、生命の意義について、また善悪について、混乱した観念を持っているものはない」(小沼文彦編『トルストイの言葉』彌生書房)と、哲学・思想の重要性を指摘していたことを、私は思い起こします。
8  生命体としての地球
 ―― とりわけ環境問題は、世界的な課題となっています。
 池田 今回、九年ぶりに南米を訪問して感じたのも、各国で環境問題への関心が急激に高まっていることでした。
 チリのエイルウィン大統領は「問題は『環境保護』と『経済成長』を調和させることです」と、そのむずかしさを率直に語っていました。
 ―― チリの首都サンティアゴでは、スモッグが深刻だそうですね。
 池田 しかし、大統領は「今、(環境問題に)若い世代が意識をもって取り組み始めています」と、青年たちの活躍を大いに期待されていた。新しい仕事には、新しい力の結集が必要です。
 ログノフ わが国では、一九八九年に、チェルノブイリ原子力発電所で大きな事故がありました。おそらく、今世紀最大の人災といえるでしょう。
 ―― 事故の原因は、どのへんにあったのでしょうか。
 ログノフ 設計上の欠陥、運営上の問題、技術者の教育不足など、いろいろ考えられます。
 しかし、最大の原因は、生産性を優先するあまり、安全性の確保や環境の保全について顧みることのなかった、執行部の指導性にあると思います。
 池田 貴重な歴史の証言です。
 ―― イギリスの化学者ラブロックは、火星の生命探査計画に参加したことをきっかけとして、地球そのものが巨大な生命体であるとの「ガイア仮説」を唱えました。この理論は“地球生命”という視点から、環境問題に新たな理論的展開をもたらしましたね。
 池田 ラブロックの『地球生命圏――ガイアの科学』(スワミ・プレム・プラブッダ訳、工作舎)によれば、地球の大気や海洋や土壌は、すべての生物とともに、全体として生命を維持するシステムを成しつつ、生命に最適な状況をつくりだすよう、みずからを調整している。
 そして、この地球の環境が、いかに希有なものであるかを、大気の成分などを例にあげて説明しています。
 ログノフ 地球の大気は、およそ八割がチッ素、二割が酸素からなっていますが、この比率は化学的に見ると、決して安定的な状態とはいえません。
 池田 現在の大気の組成が自然にできる確率は、十の数十乗分の一にすぎません。ラブロックは、こうした確率は「ラッシュアワーの路上を目かくしで走って、かすり傷ひとつ負わないくらい低い」と言っています。(笑い)
 ―― 絶妙のバランスの上に、成り立っているわけですね。
 池田 たんなる偶然では片付けられない、生命圏としての地球の存在――私たち人間をはじめ、あらゆる生物が、その地球という大きな生命システムの中で共に生きている。そこからは、自然と共に生きる、生態系との調和をはかりつつ生きていくという、“共生”の概念も出てきます。
 ―― すべてが連鎖して、“生命的空間”をつくっているということですね。
 池田 仏法ではこう説いています。
 「一切衆生のみならず十界の依正の二法・非情の草木・一微塵にいたるまで皆十界を具足せり」と。
 生物としての人間だけでなく、国土や山川草木、また一微塵といった自然や環境まで、すべてが「十界」を具足していることを明かしているのです。
 しかも、それらは孤立した存在ではなく、“生命”という普遍的なものによって、互いに何らかの関係性をもちつつ結びついているとしています。つまり、すべてのものが一人の人間生命と不可分であり、あらゆるものが“生命的存在”であると洞察しているのです。
 ログノフ なるほど。よくわかります。
9  ETに宗教はあるか
 ログノフ 先ほど池田先生は、文明の発展には、哲学の高まりが必要であると言われました。
 高度な文明をもち存続してきた「知的生命」は、いくたびか絶滅の危機に立たされながらも、それを乗り越えてきたことでしょう。とすると、ETも人類と同じように哲学・宗教をもっていると考えられますか。
 池田 仏法では、地球上の人類だけが宗教をもつ存在ではなく、この大宇宙のすべての“生命的存在”に、宗教は開かれていると説きます。
 たとえば、『法華経』の「序品」では、釈尊の説法の会座に、さまざまな衆生が集ってきます。その最初に「比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷、天、竜、夜叉、乾闥婆、阿修羅、迦楼羅、緊那羅、摩睺羅伽」などもろもろの大衆が、「歓喜し合掌して一心に仏を観たてまつる」とあります。「比丘」「比丘尼」「優婆塞」「優婆夷」の「四衆」は、仏道を求める人々です。「天」「竜」などは、「八部衆」と呼ばれる、古代インドで考えられていた人間以外の生命形態です。
 ログノフ なるほど。
 池田 また、『法華経』の最後の部分にあたる「普賢品」では、釈尊の説法にぜひとも連なりたいとの思いで、普賢菩薩が多数の菩薩とともに遠く東方の宇宙から、白象に乗って現れる。
 そして、途中の通過した星々は振動し、宝の蓮華が降り注ぎ、無量の音楽が鳴り響く様子が描かれています。
 ―― 宇宙を舞台とした、壮大なドラマです。
 池田 こうしたさまざまな生命体が、地上のみならず、宇宙からも現れて、釈尊の説法に集ってくる。
 そのこと自体、仏法の教えが宇宙全体に開かれた、普遍的なものであることを、表現しているといえます。
 ログノフ 地球だけに限定されない、宇宙に普遍のものですか。物理法則の普遍性も同じです。
 池田 さらに、「見宝塔品」では、あらゆる天体から、多数の仏が来集すると説かれています。
 「その時に仏、白毫の一光を放ちたもうに、即ち東方、五百万億那由佗恒河沙等の、国土の諸仏を見たてまつる」
 「その時に十方の諸仏、各衆の菩薩に告げて言わく、善男子、我今応に、娑婆世界の釈迦牟尼仏の所に往き、並びに多宝如来の宝塔を供養すべし」
 ここからも、宇宙の無数の天体には「知的生命」が存在し、そこにはかならず「宗教」が芽生えると見ることができます。
 ―― 仏法の宇宙観、生命観は、はっきりしていますね。
 池田 数学者でもあった私の恩師は、天文学についてもよく語っていました。
 あるときは、「この仏法の宇宙観は地球だけに限っていない。地球上においてわれわれが生存していると同じ状態のものが、大宇宙にはいくつもあるという考え方です。これは今の天文学でもいっていることです。他の仏国土に衆生があって、仏を求めるならば、そこでまた無上の法である南無妙法蓮華経を説くというのです」と――。
 これは『法華経』を講義したときの内容でしたが、恩師は難解な仏法の法理を論じるときも、じつに明快でした。
 ログノフ 何事も抽象論でなく、明快に論じていくことは、最もむずかしいことであり、最も大切なことです。
10  恐竜の絶滅と人類進化の条件
 ―― ところで、映画『ET』で有名な、スピルバーグ監督の製作した恐竜の映画(「ジュラシック・パーク」)が、この夏、話題になっています。琥珀の中に閉じ込められた恐竜時代の蚊の血液から、恐竜のDNAを抽出して、現代に恐竜を蘇らせるというストーリーです。
 ログノフ そうですか。太古の地球で最も栄えながら、絶滅した恐竜は、科学技術が肥大化し、さまざまな“文明病”をかかえる人類の未来に、警告を発しているようにも思えます。
 池田 恐竜絶滅の原因には諸説ありますが、いまだに多くの謎につつまれています。博士は、なぜ絶滅したとお考えですか。
 ログノフ たしかに、諸説入り乱れています。たとえば、十九世紀のフランスのキューという学者は、マントルをふくめた火山の大爆発などによるという説をとっています。また、別の説によれば、衛星や彗星が地球にぶつかった結果であるともいいます。
 私としては、これは外的な原因によるのではなく、大きな気候の変化といった、地球の内的変化に原因があるのではないかと思います。
 池田 大きな気候の変化とは、どのようなものでしょうか。
 ログノフ 恐竜は六千四百万年前に、完全に絶滅したといわれています。その当時、地球は寒冷期を迎えていたと考えられます。そうしたなかで、環境が変化し、食糧も減り、生息できる範囲が狭められていった。そしてついに、生存が不可能となってしまったのではないでしょうか。
 池田 この地球の大きな内的変化の原因は、何でしょうか。
 ログノフ 地球の磁場の変化と関係があります。地球内部のマグマを含めた熱対流の変化などによって、磁場は変化します。これまで、こうした磁場の変化は何度となく繰り返され、だいたい百万年程度で、北極と南極が入れ替わっているようです。
 ―― 氷河期も周期的に現れたそうですが。
 ログノフ 数万年から十数万年の周期で、氷河期と間氷期とが繰り返し現れます。最後の氷河期は約七万年前に始まり、一万年前に終了しました。現在は温暖な時期にあたります。
 ―― 最近、話題になっている地球の温暖化現象とも、関係ありますか。
 ログノフ いいえ、それはないようです。周期的な温暖化のピークはすでに約六千年前に過ぎており、現在は徐々に寒冷化に向かう過程にあります。今、問題になっている地球の温暖化は、現代の科学文明が自然の流れを逆に押し戻しているのです。
 池田 環境破壊は人類が引き起こしたものであり、いわば地球規模の人災ともいえます。それは人間の生存の基盤を、みずから壊すにも等しい行為です。
 ログノフ そのとおりです。氷河期のような大きな変動をくぐり抜けて、人類は進化してきました。しかし、その人類がみずから破滅への道を歩んでいくとしたら、これほど愚かなことはありません。
 池田 生態系の繁栄の頂点にいた恐竜が、短期間のうちに絶滅し、これまで息をひそめて生きていた哺乳類などの生物が生き残り、とって代わった。それが生物界における一つの法則性でもあったわけです。
 ログノフ ある学者の研究では、これまでに現れた生物種のうち、じつに九九パ-セント以上が絶滅したとの推定もあります。生物の歴史を全体としてみるならば、種としての生物が長期にわたって繁栄していくことは、むしろ稀なことかもしれません。生態系の頂点にあることの危うさ――その点は現在の人類にも共通しています。
11  希望の未来へ――人類的課題を超えて
 ―― 東京工業大学の大島泰郎教授は、知的生物が出現するための条件として、「大きな進化を促す宇宙的な騒乱状態の下にある不安定な惑星環境」(「宇宙生物科学」一九九一年一月号、日本生物科学会)をあげています。
 「騒乱状態」の一つの例としては、“原始の海”に生命が誕生した後の、深刻な食糧危機があります。
 ログノフ 最初、有機物に満たされていた“原始の海”の中では、その栄養を摂取して繁殖する生物が爆発的に広がっていった。当然、深刻な食糧危機に直面し、絶滅の危機を迎えたことでしょう。
 そうした危機的な状況から、光合成によってみずから栄養を作ることのできる生物(ラン藻類)が生まれてきました。
 池田 なるほど。「騒乱状態」とは、その生物にとって、絶滅か存続か、生か死かの“極限”に立たされる環境ということでしょうか。そこに生物の大きな進化が起こり、ひいては知的生物が出現した。
 ―― ほんのわずかなチャンスを、見事にとらえたわけですね。
 池田 トインビー博士は、人類史における文明の発展の根源にも、自然や社会からの“挑戦”に対する“応戦”があると洞察されていた。
 最悪の環境からの“挑戦”に“応戦”して、悪条件を乗り越えたもののみが、次代の繁栄を約束されることは、歴史の“鉄則”といえる。
 ログノフ これまで氷河期など、環境からの“挑戦”に対して、人類の祖先が勝利を収め、生き延びてきました。しかし、今、人類は、核戦争の危機、生態系の破壊、人口爆発、そして精神の荒廃など、新たな「騒乱状態」ともいうべき“地球的問題群”をかかえています。
 池田 私の恩師である戸田城聖先生はよく、「文明を滅ぼす原因はいったい何か。天災なのか、戦争なのか、その他の理由か、これを人類は十分に思索しなければならない」と語っていました。この本源的なテーマに取り組んだのが仏法であるといえます。
 時代が進んでも、人間の心にひそむエゴの魔性を克服しつつ、確かな繁栄の道を歩んでいかなければ、人類の真の勝利はありえない、というのが恩師の結論でした。
 ログノフ 同感です。人類は今、大きな困難のなかにあります。しかし、だからこそ、新しい文明が創造される可能性があるともいえるのです。
 私は、人間の善なる力を支え、発展させていくものとしての「宗教」の役割に期待しています。そして、生命と人間の価値を守るために、積極的に取り組まれている池田先生の行動に、大いに共鳴しています。

1
2