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日蓮大聖人・池田大作

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第二章 はるかなる「宇宙」と…  

「科学と宗教」アナトーリ・A・ログノフ(池田大作全集第7巻)

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12  「空」――その無限の創造力
 池田 また「不確定性原理」で有名なハイゼンベルクと師匠ニールス・ボーアとの対話も示唆的です。
 ログノフ ハイゼンベルクは非常な秀才です。一方のボーアは原子構造の理論でノーベル賞をとっています。たいへん幅広い考え方のできる人で、しかも対話が巧みでした。ボーアの周りには多くの若い英才が集まり、対話と研究に没頭していました。ハイゼンベルクもボーアのもとではじめて、自分のしていることの意味をはっきり掴みとったのです。
 池田 科学の世界もやはり「対話」であり、「師弟」ですね。そのハイゼンベルクの若き日に、師ボーアが「物質の安定性」について語った一節があります。
 「自然界にはある一定の形を作ろうとする傾向があり、そしてこの形は、(中略)それが邪魔されるか破壊されるかしたとしても、いつでもふたたび新しく元の形を生ぜしめようとする傾向が存在する」(W・ハイゼンベルク『部分と全体』山崎和夫訳、みすず書房)というのです。
 ―― 先ほどからのお話をうかがいますと、仏法では、その“ある一定のかたち”を創り出そうとする傾向性の源泉を「空」に求めているように感じましたが。
 池田 そのとおりです。万物を生みだす無量の潜在力をたたえた場――。その「空」なる世界に満ち溢れるエネルギーの妙なる躍動が“かたち”となって顕在化するのです。
 たとえば素粒子にしても、「空」なるエネルギーからつくられ、一瞬の「仮」の姿を現じた後に消滅し、ふたたびエネルギーへと潜在化していきます。
 ユイグ氏が引用している多くの実験も、音波や電気的衝撃による振動という「縁」によって、「空」から「仮」へと、さまざまな“かたち”が姿を現すものと考えられるのではないでしょうか。
 ログノフ なるほど。物理学的にいうと、物質の質量というのは、一点に凝縮したエネルギーです。
 エネルギーは“場”というかたちで広がることもできますし、“物質”というかたちで一点に凝縮することもできるのです。その意味でも、今まで述べられてきた仏法の「空」の概念について、私もいろいろ思索していきたいと思います。
 池田 これはまた、次の機会に申し上げたいと思いますが、仏法では宇宙も一つの生命的存在ととらえています。
 ログノフ ほう、そうですか。
 池田 ですから、物質の究極も、無限の宇宙も、そして不可思議なる生命も、この「空」なる実相をそなえている。
 あらゆる生命空間に秘められた、無限の創造力としての「空」は、「縁」に応じて「仮」と現れ、また潜在化しゆくダイナミックなものです。最先端の科学の眼も、仏法の英知と同じく、この一点を凝視しているのではないでしょうか。
 ―― 次章は、「脳と心」、また身近な「夢と睡眠」などについて語っていただきたいと思います。

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