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日蓮大聖人・池田大作

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「大三国志展」を見て(上) 「誓い」に生き抜く 人生の名画を!

2008.7.6 随筆 人間世紀の光5(池田大作全集第139巻)

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1   美の光
    善の光の
      創価かな
    共に あげなむ
      勝利の杯をば
 「金は大火にも焼けず大水にも漂わず朽ちず・鉄は水火共に堪えず・賢人は金の如く愚人は鉄の如し
 有名な「生死一大事血脈抄」の一節である。
 「時」の厳正な審判の前に、偽物は儚く消え去るものだ。
 本物のみが、朽ちることのない黄金の光彩を放つ。
 これは、人生であれ、芸術であれ、変わらざる法則といってよいだろう。その「金の中の真金」たる魂との出会いほど、心躍るものはない。
 先日(六月九日)、私は、開館二十五周年の佳節を迎えて、新装なった東京富士美術館に足を運んだ。
 みずみずしい武蔵野の緑に包まれた、美の殿堂である。
 新館の常設展は、日本屈指の「西洋絵画コレクション」と絶讃を博している。
 清々しい天然の光に包まれた空間に展示されているのは、彫刻等も含め、イタリア・ルネサンスから現代までの百十四点の美の至宝だ。
 西洋美術五百年の壮麗な流れを、大河の如く堪能できる展覧室が誕生し、来館の皆様から喜ばれている。
 懐かしきフランスの"文化の闘士"アンドレ・マルロー氏が語られた通り、「美術館は、人間について最高の理念を与える場所の一つ」(「芸術論」小松清訳、『世界の大恩想』2-14所収、河出書房新社)なのだ。
2   三国志
    嬉しく見つめむ
      懐かしく
 常設展を鑑賞した後、「大三国志展」の会場に入った。
 まず、目に飛び込んできたのは、英雄・関羽の等身大の像だ。千八百年の歳月を超え、雄大な歴史とロマンの世界に誘ってくれる。
 もしも、恩師・戸田城聖先生がご一緒であれば、どれほど喜んでくださったことか。
 「大作、よく見なさい。これは、こういうことだよ」
 「大作、これは、どう思うか」……。
 私は、胸奥で恩師と対話を重ねながら、青年たちと共に、二百二十に及ぶ逸品を、一点また一点、見つめていった。
  断固たる
    我らが覚悟は
      英雄と
    偉大な歴史は
      万世に残らむ
 「桃園の誓い」のコーナーには、三英雄の名画が並ぶ。
 大人の風格の劉備。信義に生き抜いた英傑・関羽。そして、全身、これ気迫の猛将・張飛……。
 思わず、「いいね!」と感嘆の声を上げた。
 時は、中国・後漢の末──「黄巾こうきんの乱」(西暦一八四年)に混迷する世を救うため、三人の青年が出会い、意気投合した。張飛の家の桃園で、義兄弟の契りが結ばれたのだ。
 「心を一つにし力を合わせ、苦難にあい危険にのぞむものを救いたすけて、上は国家の恩にむくい、下は民草を安らかにしたい」(『完訳 三国志』1、小川環樹・金田純一郎訳、岩波書店)
 劉備、関羽、張飛は、三人ともに二十代の若者だったと推定される。無名であっても、青年たちの熱き血潮は、天下を覆う勢いがあった。
 大理想をめざして共に生き抜くことを誓った人間の魂の結合はど、美しいものはない。
 我ら創価の盟友も、永遠不滅の人生の大名画を残していくのだ。
3   あまりにも
    優しく強き
      母の声
 私たちが戸田先生の膝下で学んだ、小説『三国志』の初版本も展示されていた。作者の吉川英治氏愛用の万年筆などと共に、東京・青梅市の吉川英治記念館が貸し出してくださった貴重な品である。
 二十一年前(一九八七年)の風薫る五月、妻と共に文豪の記念館を訪れ、夫人の文子さんに迎えていただいたことが、今も胸に温かい。
 昭和三十七年に亡くなった吉川氏とは、お会いする機会はなかった。
 しかし、晩年、信濃町の慶応病院に入院された氏は、私の知り合いの理髪店に来られた折、学会に深い関心をもたれていることを、店の主人に語っておられた。
 吉川氏の『三国志』の冒頭には、劉備と母の語らいが描かれている。
 ──若き親孝行な劉備が、老いたる母のためにと、旅先で高価なお茶を買って帰る。母はいったんは喜んだ。
 ところが、息子が、お茶のために、父の形見の剣を人に与えたことを知るや、突然、その茶壷を川に投げ捨て、慟哭しながら劉備を叱責する。
 ──なぜ、先祖伝来の宝の剣を人手に渡したのか!
 「時節が来たら、世のために、また、漢の正統を再興するために、剣をとって、草廬から起たねばならぬぞ」(吉川英明責任編集『吉川英治全集』24、講談社)と、幼少時から教えてきたではないか、お前はその大事な使命を忘れ果てたのか、戦う魂を失ったのか──と。
 母の叱咤に、劉備は大きな愛を感じ、涙ながらに悟る。
 「ご安心下さいお母さん」「もう私も、肚がきまりました」(同前)──この母子の誓いが、劉備の大業の原点となった。
 恩師は婦人部に語られた。
 「創価学会の母は、次の世代に、この偉大な仏法を伝えてゆくべき重大な使命がある」「貴女の信心で、皆、ついてくるようになるのだよ」
4  思えば一九五一年(昭和二十六年)、戸田先生が第二代会長になられて、まず結成されたのが、学会の母・婦人部であった。六月の十日のことである。
 そして、その一カ月後の七月十一日に広布の英雄・男子部が、十九日に創価の華・女子部が結成されたのである。
 まさしく、母の大地から青年の若木が生き生きと伸びていく象徴である。そして成長した青年が、師と同じ心で、尊き母たちを、断じて守りに護り抜くのだ!
5   人間に
    何が大事か
      知る我ら
    怯まず恐れず
      正義の旗持て
 いかなる基準をもって、優れた人物とするか。
 『三国志演義』には、"善を用い、悪を除く"力を持てと示されている。
 とくに乱世にあっては、「破邪顕正」の大勇と智慧なくして、善なる民衆を護っていくことは絶対にできない。
 この点は、創価の父・牧口常二郎先生も、「悪人の敵になりうる勇者でなければ善人の友となり得ぬ」と、誠に峻厳であられた。
 『三国志演義』に印象深く引かれた、孔子の箴言(『論語』)がある。
 「十室のゆう、必ず忠信有り」(十軒はどの小さな村にも必ず忠信の人はいる)と。
 人材はいないのではない。
 必ず人物はいる。見る眼をもって、見出すならば!
 必ず人材は出る。その人を信じて、伸ばすならば!
 いわんや「諸法実相抄」に、「二人・三人・百人と次第に唱へつたふるなり、未来も又しかるべし、是あに地涌の義に非ずや」と明言されている。
 この仰せ通り、世界百九十二カ国・地域で「地涌の義」を証明してきたのが、我ら創価の師弟の誇りだ。
 戸田先生は言われた。
 「一人の新たなる真の同志をつくる。それから一人、また一人とつくっていく。これが、時を創ることになる」と。
6   動乱の
    勝利の彼方の
      指揮執れる
    世界の孔明
      涙溢れむ
 劉備玄徳が三度にわたって諸葛孔明の草廬を訪れた「三顧の礼」のコーナーも、味わい深かった。
 中国の国宝に当たる国家一級文物の「三顧茅廬図ぼうろず」(十五世紀)を筆頭に、日中の錚々たる画家たちが「三顧の礼」の名場面を渾身の力で描いている。
 この時、劉備は四十七歳。二十歳も若い青年・孔明を、最大の礼を尽くして迎えた。
 その誠意に、若き孔明は感激し、決然と立つ。
 「士は己を知る者のために死す」(『史記』)である。
 以来、孔明は、自分を見出し、天下の命運を託してくれた劉備に、ただ真っ直ぐに「報恩」の誠を尽くしきっていくのである。
 劉備と孔明の対面は、まさに"歴史を変えた劇的な出会い"といってよい。私も、若き創価の孔明たちとの出会いには、真剣勝負である。
7  この最初の語らいの折に、孔明が劉備に説いたのが、いわゆる「天下三分の計」──魏と呉と蜀の「三国時代」へのビジョンであった。
 国は乱れ、民は疲弊する、とめどない戦乱の世を、いかに鎮めゆくか。その道標として「一極」の独裁でもなく、「二極」の対立でもない、「三極」による安定を──まさに、発想の大転換であった。
 一人の青年が描いた画期的な構想から、無秩序な群雄割拠とは異なる、三国共存の新時代が始まったのである。
 戸田先生は、激動の時代を勝ち抜き、世界の平和を創造しゆく智慧として、孔明の如き優れた構想力を磨けと、繰り返し教えてくださった。
 忘れ得ぬご指導である。
 一九七四年(昭和四十九年)から七五年の二年間で、私はアメリカを三回、中国を三回、さらにソ連を二回、訪問し、交流を広げた。
 コスイギン首相、周恩来総理、キッシンジャー国務長官はじめ、三国の首脳とも胸襟を開いて対話を重ねた。
 私は一民間人として、平和主義、文化主義、教育主義、そして人間主義という理念を掲げ、三国を結び合いながら、東西冷戦下の世界を、調和と安定の方向へ少しでも前進させたいと願ったのだ。
 十一年前、インドを訪れた折には、ナラヤナン大統領との会見や記念講演で、『三国志』を紹介し、"米国・中国とともにインドが三極の主軸となり、世界の平和へ協調する新世紀を"と展望した。
 大事な点は、鋭く現実に即応しつつ、"第三極"ともいうべき新しい発想、新しい眼で、世界を見ることだ。
 私はサミット(主要国首脳会議)についても、十年前から、ロシアに続く中国やインド等の参加など、地球一体化時代に即応した"枠組み"の拡大を提唱してきた。現在、そういう方向が定着してきたのは、嬉しい限りである。
 七日に開幕する「北海道洞爺湖サミット」も、史上最大規模の参加国となる。大成功を心から祈りたい。
 ともあれ時代の大局を見つめながら、たゆまず対話を!
 我らは、民衆の幸福のため、社会の安定のため、世界の平和と繁栄のために、人間の壮大な連帯を築いていくのだ。

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