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日蓮大聖人・池田大作

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人間主義の都 世界の八王子  

2004.5.20 随筆 人間世紀の光1(池田大作全集第135巻)

前後
1  壮大に開きゆけ! 勝利の大道
 トインビー博士との会談は、今もって忘れることはできない。
 博士は、しみじみと私の目を見つめながら、優しく、厳しく語った。
 「指導者は、勇気がなければなりません。勇気は伝染するからです。指導者の勇気が、人から人へと伝わり、広がっていくのです」
 トインビー博士と散策したロンドンの緑のホーランド公園と同じように、今の季節、八王子も青葉の光に包まれ、武蔵野の天地は眩い夢の国のように美しい。
 ことに、東京牧口記念会館を訪れた折には、青々とした詩情豊かな森の山「月光の丘」の彼方に、晴れ渡る大空を見ては、同志の祈りに、妻と感謝する日々である。
 そしてまた、八王子の夕焼けも、まことに荘厳だ。
 ♪夕焼け小焼けで
  日が暮れて……
  おててつないで
  みなかえろう……(作詞・中村雨紅)
 童謡の「夕焼け小焼け」も、ここ八王子の陣馬街道の里を舞台に作られたと、言い伝えられている。
 一日の大使命を果たし抜いた、黄金の輝く太陽が悠然と沈む。やがて、頭上には、宝石をまいたように満天の星々が光り、広がる。
 その天空を見つめながら、はるかな宇宙空間にも、「八王子」があると伺った。
 それは、小惑星「Hachiojiは ち おう じ」〈小惑星番号6612〉――発見者の一人が、八王子出身の著名な天文学者であり、愛する故郷の名を付けられたのだという。
 火星と木星の間にある、この小惑星「Hachioji」の直径は推定約十キロ。その表面積は、八王子市の面積の二倍近くになるようだ。
 広宣流布に大奮闘してくださる尊き八王子の同志の皆様方をば、日天・月天とともに、この″八王子天″も、大宇宙から厳として日夜、守護してくれているのだ。
2  ともあれ、わが八王子は、二十一世紀の偉大なる「大本陣」である。
 仏法では、「八」は「開く」という意義がある。
 この大地から、大いなる「教育」と「文化」と「平和」の波動を、全日本へ、全世界へ、千波、万波と広げ、開いてゆくのが八王子の宿命だ!
  八方の
    世界を見つめむ
      八王子
    栄光与えむ
      我らの城より
 創立の父・牧口初代会長を顕彰する東京牧口記念会館から続く桜並木の向こうには、堂々たる創価大学の本部棟が聳え立っている。そして秀才たちを見守っている。
 記念会館の側には、豊かな芸術の殿堂・東京富士美術館がある。その中には、世界の至宝といわれる、威厳をたたえた芸術品が、文化の尊さを物語っている。
 この「教育」と「文化」の、園林に、世界中から多くの識者や指導者が往来している。
 世界的な物理学者である、モスクワ大学前総長のログノフ博士を八王子にお迎えした時、博士は「ここに来ると、自分の家にいる時以上に、ほっとします」と語られた。
 さらに、「ここに、私の心を置いておきたい」とまで、言ってくださったのである。
 博士は、前年に最愛の夫人を亡くされていた。
 私と妻は、訪日を念願しておられた奥様を偲び、牧口記念庭園に「ログノフ夫婦桜」と「ログノフ夫人桜」を植樹させていただいた。お孫さんと共に、桜をご覧になったログノフ博士は、八王子の大地に立って呼びかけられた
 「ここに来て、創価学会の皆様の真心に包まれました。現代は、人間主義が欠けています。二十世紀は過酷な、無慈悲な時代だったのです。
 私はこの桜を見て、『本当の人間主義が、ここにある』と実感しました。皆さん、共に力を合わせて、人間主義の花開く世界を築いていこうではありませんか!」
 博士の瞳には、熱い涙が光っていた。
 今や、わが八王子は、世界の人びとが憧れる「人間主義の都」となってきたのだ。
3  フランスの文豪ロマン・ロランは語った。
 「偉大な誠実な声は――はじめは耳を傾けるものがあるにせよ、ないにせよ――いつもついにはそれを通すことになるものです」(「ノート23」山口三夫訳、『ロマン・ロラン日記』4所収、みすず書房)
 今、自分がいる天地、自分が声をあげ、自分が戦う場所が、「人間主義の拡大の本舞台」なのだ。私も、「新世紀の本陣」である八王子に、わが魂を置いて真剣に戦っている。八王子の学会組織の流れは、私が青春の炎を燃やして戦い、歴史を創った文京支部の直系であるからだ。
 一九五六年(昭和三十一年)の夏、上野町で行われた会合に駆けつけたことも懐かしい。
 五十年前(一九五四年)、八王子方面を通られた戸田先生は、一目で″宿縁深き大地が、夢に見た天地が、ここにある″と見抜かれ、未来の大発展を展望された。
 私は、時間を見つけては、わが同志が活躍する八王子の市内を回ってきた。
 谷野町の東京牧口記念会館を出て、滝山街道の方へ下っていくと、近くには真新しい八王子平和講堂がある。
 JR八王子駅の南側、子安町の八王子文化会館や、野猿街道を通り、さらに南にある、由木の八王子南文化会館の方へ、車を走らせた時もある。その先には多摩ニュータウンが広がっている。
 散田町の八王子平和会館、また甲州街道の美事な「いちょう並木」、さらに歴史ゆかしき千人町や「めじろ台」の街並みを見つめつつ、車中で題目をあげながら、大発展を祈る日々も多くあった。
 また元八王子、「長房団地」、高尾方面に向かい、正義の城である高尾栄光会館の周辺を回ることもある。
 詩歌あふれる滝山城址や、あまりにも思い出多き「ひよどり山」の小宮公園も、同志と共に歴史を語り合いながら散策した。
 昔ながらの風情が残る元横山町や、かつては生糸を横浜に運んだという有名な「絹の道」も、往年の旅人の思いを偲びながら、幾度も通った。
 私にとって、まことに親しみ深い丹木町、梅坪町、滝山町、左入町、丸山町、石川町方面に行くことも多い。その反対側の加住町、宮下町、戸吹町方面にも、幾たびとなく足を運んだ。
 そして、わが友のいる「みつい台」「中野団地」周辺を回り、あるいは中野上町、楢原町、犬目町、川口町など、浅川、川口川沿いを走ることもあった。八王子バイパスの片倉近辺から、「みなみ野」を望んだ時もあった。
 さらに隣接の秋川、青梅をはじめ、第二総東京の興隆を祈り、動く日々である。
 あの大地にも、この天地にも、創価の栄光の旗を高々と掲げながら、大事なわが地域の発展に尽力している友の姿が尊く光っている。
  三色旗
    あの地 あの家
      翻る
    大八王子の
      広宣流布かな
 私は、健気な創価の同志の姿に接するたびに、胸が熱くなる。深く最敬礼して、題目を送らせていただいてきた。
4  「どうしても、八王子に行くのだ!」
 一九八一年(昭和五十六年)の七月十九日の午後、私は、学会本部のある信濃町から、八王子へと向かっていた。
 普通なら、とても行ける状況ではなかった。
 この前日、当時の会長が急逝したのだ。私の青年部時代からの同志であり、戦友である。心ゆくまで追悼してあげたかった。さらに秋谷新会長を中心にした、学会の新体制の出発も、広宣流布のために厳然と支えねばならない。
 だが、八王子には、割くことのできぬ、この身を割いてでも行きたかった。
 私は、七月十九日の午前、信濃町で行われた告別式に出席すると、意を決して中央自動車道を八王子に走った。
 一路めざすは、創価大学のグラウンド。そこで、八王子の支部の結成二十周年の大会が行われるのであった。
5  思えば、この二年前の一九七九年(昭和五十四年)の五月三日、創価大学の中央体育館で、第四十回の本部総会が行われた。
 それは実質的に、私の″会長辞任の総会″であったのだ。腹黒い謀略を抱いた坊主と退転者たちに牛耳られた、笑顔も希望もない会合であった。
 そこには、怒りの言葉があった。苦痛の言葉があった。逆巻き流れゆく激情があった。無念の思いで泣いている友も多かった。悔しそうな苦渋に満ちた友たちも多かった。
 総会が終わり、私は創大の体育館を出て、渡り廊下を歩いていた。
 幼子を背負った婦人をはじめ、何人かの人影が目にとまった時であった。
 「先生!」「先生!」
 大きな声をあげ、手を振りながら、弾けるように駆け寄って来られた。その目には、涙が光っていた。私は、この方々を全力で励ました。
 出会いは一瞬であった。
 しかし、ここには、何があっても変わらぬ、師弟の深き世界が光っていた。卑劣な悪党どもには絶対に邪魔をさせぬ、強くして尊き同志の別世界があった。これこそが、真実の″創価学会″であった。
 この崇高にして偉大な師弟不二の世界こそ、戸田先生が「絶対に護り抜け!」と遺言された世界だ。それは、弟子たち一同の心に漲っていたはずである。
 あの幼子を背負ったご婦人たちは、八王子の婦人部員であられた。今の第二総東京の同志であった。私は、そっと「お名前を伺ってもらいたい」と役員に頼んで教えていただいた。そのお名前は、わが妻が大切に留め、私の宝として見守り、置いている。
 その時の幼子も、今は立派な男子部となって頑張り抜いておられるようだ。
 私は、本当に嬉しい。幸福な会長であると、しみじみ思った。
 ともあれ、一生涯忘れることのできぬあの日、私は、決然と新しき戦闘を開始した。
 私が八王子を死守する!
 師弟に背く輩は、そして、会員を尊敬できぬ輩は、断固として排除すべきだ。
 ここに八王子の伝統がある。尊き同志と戦える偉大な伝統がある。
6  八王子支部の結成二十周年の大会が行われた一九八一年(昭和五十六年)、私は、寒くも明るい年頭から、慈折広布のために、数人の友、そして、わが妻と共に、北米へ飛んだ。
 ついで、その年の五月には、共産圏のソ連、東ヨーロッパヘ、また西ヨーロッパヘ、そして再び北米へと、創価の陣頭に立って翔けていったのである。
 平和と勝利の拡大という広宣流布の道を開く、世界一周の旅は連続二カ月に及んだ。
 その間、私の海外での戦いに相呼応して、日本の同志は猛然と戦ってくれた。
 なかでも、わが八王子の英雄たちは、「断じて壁を破るのだ!」と、自分自身の未曾有の挑戦、未曾有の奮闘、未曾有の拡大の歴史を、一日、また一日と、決然と積み上げていったのだ! 寄せ来る苦難の波を、決然と打ち返し、乗り越えながら!
 その勇猛果敢なる地涌の菩薩の大活躍の様子については、旅の先々で報告を受け、胸が高鳴るのを覚えたのであった。
 どちらかといえば弱い体である私は、長旅で疲労がたまってきても、わが八王子の弟子たちが真剣に頑張り抜いていることを知って、わが闘魂を、さらに熱く、さらに強く燃え上がらせた。
 そして旅も終わりを迎えた七月、私は、ロサンゼルス近郊で、八王子の友の大勝利の報を聞いたのだ! 大東京は美事に勝ったのである。
 喜び勇んで勝利の帰国を果たした後、七月十九日、私は念願叶って、喜々として使命に生きゆく八王子の友との大会に駆けつけたのだ。
 人生の極致を思わせる劇であった。人生の最極のドラマの出会いであった。
 そこには、久遠よりの血脈を分け合った同志の涙があり、汗があった。
 私が会場に到着すると、この懐かしき″八王子家族″は、皆が皆、険難のアルプスを越えた常勝将軍のような、最高の笑顔で迎えてくれたのであった。
 私は嬉しかった。本当に嬉しかった。
 勝って見える師弟ほど深く幸福なものはない。
 勝つことは幸福だ!
 勝つことは喜びだ!
 そして、わが八王子の輝く大勝利は、師子たちが「新世紀の本陣は、この八王子なり」と自負し決意しゆく、偉大なる夜明けとなったのである。
7  十年前(一九九四年)の秋十一月、学会の創立六十四周年を祝う集会を、私は八王子の同志らと共に迎えた。
 この時、私は、牧口先生の言葉を贈った。
 「信は組織の中核にして、誠は組織の推進力である」
 「信」と「誠」――ここに我らの「団結革命」の要諦があるからだ。
 学会は、「信心の組織」である。いかなる役職、肩書、社会的地位があろうと、信心においては、一切が平等だ。
 この一点をはき違え、「自分は幹部だから」「社会的な立場が高いから」「私は有名校を出たから」と、他の同志と心を一つに合わせていかないならば、異体同心の組織は絶対にできない。それは、仏の教訓に背く輩となるからだ。
 戸田先生も、″そういう連中は遠慮なく叩き出せ″と、たびたび厳しく叫ばれた。
 私も全くその通りだと思う昨今である。
 団結とは「心を一つに合わせる」戦だ。そのためには、心の奥底に潜む特権意識を一掃することだ。「信心の成長」という同じ目的に向かって進むことだ。
 役職でも、立場でもない。人間として「誠実」に徹することが第一義である。
 大聖人が「教主釈尊の出世の本懐は人の振舞」と仰せの通りに、最高の人間性の世界が、学会の世界でなければならない。
 学会の使命は、広宣流布にある。ゆえに、あらゆる非難や中傷を浴びながら、懸命に広布に戦う庶民が、一番、偉いのだ。一番、大聖人の御賞讃を受ける人なのだ。
 今までは、八王子からは、裏切り者、不知恩の者は出なかった。
 戸田先生は、「不知恩の者は畜生である。絶対に許すな! 臆病者、卑劣な者、裏切り者は去っていけ!」と叫ばれた。
 この遺言通りの八王子の伝統を、私は一段と厳守していく決心である。
 戦う一人を徹して守れ!
 そこから、「異体同心」の前進が始まるのだ。
 私は、八王子の友を讃え、一首を詠んだ。
  鋼鉄の
    心と心を
      結びたる
    佛の軍勢
      日本一かな
 八王子市の人口は、現在、約五十三万人。創価大学が開学した昭和四十六年に約二十五万人であり、実に二倍以上に発展している。
 そして、八王子には、創価大学をはじめ、二十一の大学・短大等があり、十一万人もの学生が通っている。わが英知の創価学会・男女学生部の皆さんも、各大学のキャンパスで真剣に学び、正義と勇気の対話に励んでいる。
 まさに八王子は、若々しき「学問の都」であり、「学生の街」であり、未来に光り輝く「青年の街」である。
 ちょうど十年前、私はイギリス・グラスゴー大学から、名誉博士号を頂戴した。その荘厳なる大儀式は、今もって忘れることはできない。
 グラスゴー大学は、経済学の父といわれたアダム・スミス、そして蒸気機関の開発者であるジェームス・ワットらを輩出した。実学の気風あふれるグラスゴーの都は、近代の夜明けを開いた「産業革命」の電源地となった。
 そうだ。″わが街″にも、新時代を創る力がある!
 その八王子こそ、新たな「精神革命」の新天地だ。
 おお、八王子!
 正義の革命児である、無数の王子たち、そして王女たちが八方に乱舞する偉大な天地よ!
 八王子の君たちよ!
 私と共に戦おう!
 そして、断じて勝とう!
 終わりに、私は、南米の英雄ボリバルの師子吼を皆様に贈りたい。
 「諸君は、天が人間に託した最大の偉業を完成しようとしている」(神代修『シモン・ボリーバル』行路社)

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