Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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リー・クアンユー首相 シンガポール建国の父

随筆 世界交友録Ⅱ(後半)(池田大作全集第123巻)

前後
5  「王冠を捨てよ! 人間を救え」
 首相にお会いした翌日、私は地元の友に、シンガポールの伝承を語った。
 昔、一人の若き王が、新しき都を求めて、同志とともに航海に出た。美しい島影を前に、嵐に見舞われ、船は沈みかける。船を軽くするために、捨てられるものは全部、捨てた。それでも沈没は続く。残るのは、王の頭上に輝く重い宝石の王冠のみ。
 王は皆を救うために、ためらいなく冠を荒れ狂う海に投げた。すると、たちまち嵐はおさまり、全員が無事で、シンガポールの島に着いたという。
 「王冠を捨てよ! 人間を救え」。王冠とは、リーダーの利己心のことであろう。
 首相にとって、権力の座も目的ではなかった。手段にすぎなかった。早くから、後継の育成に全力をあげ、九〇年、若きゴー・チョクトン首相にバトンタッチした。
 しかし、その目は今も、愛する国民の未来を見つめて、爛々と光っている。
 「自分が死ぬことになり、棺桶が墓場に下げられた瞬間でも、もしシンガポールの政治が間違っているならば、ただちに起き上がって正す」(岩崎育夫『リー・クアンユー 西洋とアジアのはざまで』岩波書店)と。
 この気迫。この執念。
 私にも、「青年たちには、ただ『平和と繁栄の二十一世紀』を満喫してもらいたい。それこそが私の念願なのです」と、強く強く語っておられた。
 建国の厳父の獅子奮迅――その姿を忘れぬ限り、「獅子の都」シンガポールは、栄え続けるに違いない。

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