Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

人間愛に生きるオーストリア文部次官、歌… サイフェルト女史

随筆 世界交友録Ⅰ Ⅱ(前半)(池田大作全集第122巻)

前後
4  人生は学校、「悩み」はその教師
 「年ごとに痛切に思います。人生は余りにも短い。″何か″を残さなければと。私を必要とする人のために尽くしたいのです。今日が、あるいは明日が、人生最後の日になるかもしれない。だから″不滅の何か″を求めているのです」
 女史は、社会では人間愛に生きる「文化の母」であり、家庭にあっては最愛の夫君ラルフ・ウンカルト博士の良き妻である。
 女史は、日本の女性へのメッセージを語る。「自覚をもち、自分の力を信じることです。人を愛する女性の″愛″は、世界のすべての海より深く強いのですから」
 女史の歌には、ハートがある。苦労など、おくびにも出さない女史だが、魂に、涙でしか洗えなかった光がある。
 「心より来る。願わくば心に至らんことを」。ベートーヴェンのこの祈りのごとく、音楽は心から心への言つけである。
 埼玉での舞台であった(九三年)。コンサートが終わり、女史に花束が贈られた。アンコールで女史は、私の詩による「母」の曲を歌われた。日本語のままで。
 深き心から心へ──。心が心を揺さぶって、会場は一つになった。最前列の老婦人は泣いていた。女史は歌い終えると舞台から降り、婦人にその花束を手渡した。公演終了後も、姿を見つけて声をかけておられたという。苦労してきた人ほど、人の心を大切にする。人のいに敏感になる。
 この舞台で歌われたワーグナーの一曲「苦しみ」では、夕日がやがて朝日として蘇生する姿を見つめ、こう歌う。
  死だけが生を生み出すように
  苦しみだけが 喜びをもたらすのだ
  おお 自然よ
  私は何とおまえに感謝していることだろう!
  このような苦しみを
  私に与えてくれたことに!(浅香淳編『新編世界大音楽全集30 ドイツ歌曲集』佐藤征一郎訳、音楽之友社)
 生きている限り、悩みはつきない。悩みは生の証である。前進しているゆえに障害もある。それらを避けずに乗り越えたとき、生命は晴ればれと、豊かに広がっている。
 そして、自己の内なる世界が豊かになったのを感じることこそ、「幸福」ではないだろうか。
 悩みこそ、生命の宝を教えてくれる教師なのである。
 「『冬は必ず春となる』という仏典のすばらしい言葉を知りました。オーストリアにも『朝がくれば必ず太陽が昇る』『雨のあとには必ず太陽が輝く』という言葉があります。そうした太陽のような生き方を、私は両親から学んだのです」
 両親の「目」となって歩いた少女は、今、「人々の中に光を注ぎたいのです」と生き抜く。
 あなたがくれた、この命で、この歌で、この明るさで! ──女史は今も、お父さんの懐かしい、大きな手を、しっかり握りしめておられるのかもしれない。
 (一九九五年四月二十三日 「聖教新聞」掲載)

1
4