Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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中東和平の要 ムバラク エジプト大統領

随筆 世界交友録Ⅰ Ⅱ(前半)(池田大作全集第122巻)

前後
2  「ピラミッドは頂上からはつくれない」
 西側のジャーナリストは書いた。
 「はっきりわかっているのは、エジプトを近代的な民主国家に仕立て上げよう、というムバラク(=大統領)の決意だ。もし彼が成功すれば、ピラミッドを築いた先人を上回る偉業を達成したことに、なるだろう」(八六年五月二十二日号、日本語版「ニューズウィーク」)
 私は、大統領の真剣さに敬意を表した。
 「あのピラミッドも、頂上からつくられたのではありません。基礎からつくられたのです。未来の″繁栄のピラミッド″の基礎を、今、大統領がつくっておられると信じます」
 基礎をつくる土台石は「教育」である。
 長く続いた戦争で、教育環境は悪化し、大改革を必要としていた。
 「エジプトの子どもたちに、微笑みと、失われた子どもらしさを私は取り戻したい。しかし、これまで苦難に耐え抜いてきた国民に、これ以上、負担をあたえることは、とうてい忍びない。何とか他の財源によって、教育の改革をするのだ」
 これが大統領の心情だったという。民衆への愛情に、私は涙する思いであった。
 簡単に国民を犠牲にして、自分たちの利害を貧る為政者とは、千里、万里の違いではないか。
 大統領は「ものごとに耐え抜くことが、われわれの世代の責任です。われわれは、その運命から決して逃れることはできません。われわれは、子どもたちの未来のために、耐えうる限り、耐え抜きます」との信念であった。
 「時代は変わりました」
 大統領は、世界が一体化しつつある現実を冷静に見極めておられた。
 「ポーランドの大統領がいいことを言いました。一箱のマッチでも、一国だけではできないと。軸にする木、イオウ、箱、接着剤など、多くの国が協力しあって、一つのものが完成します」
 大統領の偉さは、そういう世界史の潮流を傍観するのではなく、みずからその潮流に船を進められたことである。
 世界の平和のカギを握る中東の平和──。
 「中東の平和のカギは、イスラエルとの交渉の継続にあります」
 あの日、私の目を見つめて、そう語られた翌年、イスラエルとPLO(パレスチナ解放機構)の歴史的な握手が実現した。(九三年九月、両者の相互承認、パレスチナ暫定自治共同宣言が実現)
 「世界の火薬庫」といわれた中東の大転換点であった。その当事者、イスラエルのラビン首相とペレス外相、PLOのアラフアト議長が、九四年度のノーベル平和賞に決定した。
 その陰で、忍耐強く、精力的に対話を続けた、仲介役のムバラク大統領にも、世界は喝采を送ったのである。
 私がピラミッドを初めて見たのは、一九六二年二月である。
 一分の狂いもなく、堂々として積み上げられた巨石の重畳。天地を圧する、千古の偉観に私は思った。
 「真に偉大なるは『人間』なり」と。
 かくも精確にして巨大なる金字塔ピラミッドを地上に生んだ、「民衆」の力こそ永遠なり、と。
 ヒエログリフ(エジプト象形文字)を研究した考古学者シャンポリオンは、古代エジプト人をイメージして、こう呼んだ。彼らは「百フィートの人間」だった──。
 大いなる建設には、大いなる人間を必要とする。
 堂々たる偉丈夫ムバラク大統領は、その心も、「高貴なまでの謙虚さ」とたたえられる度量の人である。
 世界が変わり、時代が変わる今、このときこそ、正義によって立つ「大いなる人間」が必要とされているのである。日本はその準備ができているだろうか。
 (一九九四年十月二十三日 「聖教新聞」掲載)

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