Nichiren・Ikeda
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日蓮大聖人・池田大作
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民衆を守る大樹
周恩来総理夫妻
随筆 世界交友録Ⅰ Ⅱ(前半)(池田大作全集第122巻)
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二本の桜
じつは、ご夫妻の住まいの庭には以前、二本の桜があった。二人で大事にされていたが、一本は枯死してしまった。二本の桜のもとで写真を撮り残さなかことが心残りですと、女史からうかがっていたのである。
北京・中南海のご自宅には、二度うかがった。四年前(九〇年)の最後の訪問では、総理の遺品を贈りたいと話があった。ご夫妻の質素な生活は、だれもが知っている。数少ない、そんな大切なものをいただくわけにはいかない。何度も、お断りした。しかし女史は「私は生前の総理の先生への心情をよく知っております。だから、お贈りすることにしたのです」と譲られない。総理愛用の象牙のペーパーナイフであった。
「とれをご覧になって、総理をしのんでください。先生と総理の友情の形見として‥‥」
ともに頂戴した女史愛用の玉製の筆立ても、今は遺品となったことが悲しい。
思えば会見のとき、総理は暴虐な四人組との戦いの真っただ中にあられた。安穏を願う十億の民の″思い″を一身に担って総理は一人、大樹のごとく立っておられた。逝去の報に、総理を親と慕う中国の人々の慟哭は、広大な山河をも震わせた。その総理の″思い″を胸に、女史は生き抜かれた。
私たちも生きたい。ご夫妻のように。いかなる、心なき嵐があろうと、民衆を尊敬し、民衆のために、民衆とともに、民衆の中で、人間への愛情を貫き通したい。
今、日中の交流は広がり、″春″は来たかに見える。しかし日本の関心が、ふたたび、中国との「友情の拡大」でなく「経済関係の拡大」にのみ向けられているのならば、あの戦争から何も学んでいないことになろう。
年々歳々、春は巡り、桜花は匂う。
私は祈る。総理ご夫妻が願われた、子々孫々までの友好の「心」が日本人の胸にも花と開いて、永遠に列島を埋め尽くしてほしい──と。
(一九九四年四月十七日 「週刊読売」掲載)
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