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日蓮大聖人・池田大作

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小説「人間革命」7-8巻 (池田大作全集第147巻)

前後
24  雨は、なおも降り続いていた。
 戸田は、雨の音を気にしながら軒先を見ていたが、急にあらたまった顔で、山本伸一を顧みたのである。
 「伸一、参謀室の責任で、もう一度、青年部の総登山を企画してみないか。今日の総登山を、このままの形で流すことはできない。雨が降れば、すぐに、やきもち焼きの先輩たちが、『青年部は信心がないから』などと言いだすだろう。それでは、真剣に戦っている青年たちが、かわいそうだ。
 どうだろう。今年下半期の闘争目標として、十月ごろ、もう一度、青年部の総登山を決行したら。張り合いもあるだろうし……。これは、決して私の命令ではない。相談なんだよ」
 「先生、私もそのことを、さっきから考えておりました」
 伸一は、即座に答えた。
 驚いたのは、居並ぶ首脳たちである。さまざまな障害を乗り越えて、今回の総登山を、やっと終たばかりのところである。彼らは、ただ、ほっとしていたといってよい。
 彼らのなかで、誰一人、そのような次の目標を考えていた人は、いなかった。いや、″今日は、まだ考える必要もない、東京に帰ってから、少しずつ打ち合わせをしていけば、それでよい″と思っていた。
 「十月、今度は一万人だな。できるか」
 「できます。必ずやります。十月には、見事な総登山を、お目にかけたいと思います」
 伸一は、一点の迷いもなく即答した。
 青年部首脳は、また驚いた。
 ″十月といえば、わずか五カ月先のことではないか。五千五百人の総登山ですら、容易ならぬ闘争であった。それが今度は、一万人という倍の動員である。このような数が、果たして可能であろうか……″
 彼らは、その瞬間、興奮を覚えたものの、危惧の念を抑えることができなかった。
 戸田と伸一は、全く同じ時に、同じことを考え、話し合っている。それは、師と弟子が一体となって広宣流布へ進みゆく、強靭なスクリューの回転を思わせた。
 伸一の頭は、瞬間、急速に回転した。
 ″まず、青年部員の急速な拡大が必須となる。日常活動の活発化で、その成果をもたらすしかない。現在の男女青年部一万人の部員を、数カ月のうちに二万人に倍増しないことには、一万人の総登山は不可能である。参謀室が、全学会の強力な推進力になり得るかどうかは、この闘争の成否にかかっている。名実ともに新段階を迎えているのだ。青年部の総力をあげなければならない。広布の進展の速度も、この推進のいかんによって、決定されるにちがいない″
 戸田は、伸一の顔に、ありありと現れた決意を読み取った。
 そして、独り言のように言った。
 「今年は激しい年だ。それだけに新旧交代の年になるだろう」

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