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日蓮大聖人・池田大作

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随喜  

小説「人間革命」5-6巻 (池田大作全集第146巻)

前後
35  その後のわが国は、一路、亡国の戦争に突入し、日々に物資は欠乏していった。そして、敗戦、戦後の荒廃である。それらが、いかに、御書の研究に没頭したいという日亨の宿願を妨げたかは想像に難くない。宿願の重大さを思い、また日一日と老境に進む日亨の焦慮は、いかばかりであったか。しかし、それでもなお、日々の研鎮を怠らず、ますます冴えきった境地を持続することに懸命であった。
 そこへ、学会の御書編纂事業が企画されたのである。どれほど喜んだことか。八十四歳の日亨は、直ちに、御書編纂に、誰よりも積極的に取り組んだのである。
 なおも、日亨と戸田たちとの歓談は続いた。
 「今まで、いろんな所をずいぶん回って歩いたもんじゃ。比叡山にも数年滞在したことがある。身延でも長いこと調べものをしたことがある。身延から帰った時など、『よくご無事でお帰りで……』と言ってくれた信者の方があったほどでな。とにかく、いろいろなことがあったよ。
 いくら研究のためとはいっても、他宗の寺に住むのは、こりゃ謗法だからな。今度の仕事が完成すれば、それで、わしの罪障も消滅するというものだ。この仕事は本山ではできん。とにかく、わしは強情だから、やると決めたら、必ずやるんじゃ」
 日亨は、意気軒昂としていた。ここでまた、戸田との「わがまま問答」「強情問答」が始まった。
 戸田は、人なつこく笑いながら言った。
 「猊下、猊下もずいぶん強情ですけれど、恩師・牧口先生も大した強情でした。私は、二十歳の時から牧口先生に仕えて、強情には、至極、慣れております。そこで、いかがでしょう。猊下は、今度、学会のおじい様になっていただけませんか」
 「そりゃ、かまわんがのう。そうなったら、時々、小言も言わんけりゃなるまい」
 日亨は、背を丸くして、笑いを浮かべた。
 戸田は、直ちに応答した。
 「どうぞ、ご遠慮なく小言もおっしゃってください。猊下は、本当に広宣流布のために、ご出生になったのですから、どうか、ひとつ、学会をかわいがってください」
 「よろしい。では、そういうことにしよう」
 「よし、これで決まった。公式の時は猊下、そうでない時は、おじいさん。今日から猊下は、学会のおじいさん、よろしゅうございますね」
 「ああ、いいとも、結構なことじゃ」
 戸田が、嬉しそうに破顔一笑すると、日亨の濃い白い眉毛の下の目も笑っていた。
 こうして、完壁な御書編纂の難事業は、堀日亨の畢生の研鑽の結晶と、戸田城聖の広宣流布への強き一念とが固い絆に結ばれて、すべての障害を越えつつ、着々と進行していったのである。

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