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日蓮大聖人・池田大作

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疾風  

小説「人間革命」3-4巻 (池田大作全集第145巻)

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9  開戦の翌日、六月二十六日に、共産党の機関紙「アカハタ」は、三十日間の発行停止処分を受け、七月十八日には無期限発行停止を命じられている。また、既に六月十六日から、集会、デモは、全国にわたって無期限に禁止されていた。
 七月二十八日、いわゆる「レッド・パージ」が開始され、新聞・放送・通信機関に従事する左翼的な傾向の人びとが、企業の安全と平和のためという理由で、解雇されていった。それは、やがて日を追って全産業に浸透し、年末までに約一万三千人が職場を追われた。
 八月三十日には、全労連(全国労働組合連絡協議会)が団体等規正令によって解散を命じられている。
 憲法も国内法も、問題にならなくなった。すなわち、GHQは、指令によって、直接、内政に介入するにいたったわけである。
 マッカーサーは、戦争開始二週間後の七月八日、日本政府に対し、七万五千人の「警察予備隊」の新設と、海上保安庁の人員八千人の増員を指令してきた。吉田内閣は、ポツダム勅令としてこれに対応し、国会に諮ることなく、警察予備隊の創設に向けて準備を進めた。
 八月十日、警察予備隊令が公布され、八月二十三日には、早くも七千人の隊員が、第一回の入隊を完了している。これは、米駐留軍が、すべて朝鮮戦線へ移動したあと、占領下日本の治安を確保するのが目的であったことはいうまでもない。
 雲行きは慌ただしく、国民が気づいた時には、いつの間にか準臨戦態勢に置かれていたといってよい。
 当時、占領下にあった敗戦国日本としては、なす術もなかったといえよう。
 ともあれ、大国が自国の利益のために、他国を犠牲にすることは、断じて許されるものではない。それこそ人道に反する、人類の敵ともいうべき行為だ。
 また、国と国とが、社会体制や民族、宗教などを、己が至上の価値として対立していては、この地球上には、いつになっても平和な春は訪れないであろう。対立と偏狭のなかには、平和への真の対話は生まれないからである。
 ここに、人間を分断し、対立させる要因を、大きく包含し、調和を生み出していく高次元の理念が、どうしても必要となる。人類は、心の奥底で、それを待望しているのではなかろうか。
 これこそ、仏法を根底にした中道主義であり、それはまた、人間主義ともいえよう。その思想によって、やがては戦雲はらむ疾風が、平和の薫風へと変わることを願ってやまない。

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