Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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前哨戦  

小説「人間革命」1-2巻 (池田大作全集第144巻)

前後
13  「日蓮大聖人の仏教の真髄を、ひとかけらでも身につければ、いかなる教団の教義も、問題ではないのだ。勝負は、初めから決まっている。それを、いかにも自分たちの力でやったように、手柄顔をする者がどこにいる。
 道場破りの根性はいかん。英雄気取りはよせ。暴言を慎み、相手からも、心から立派だと言われる人になれ」
 戸田は、理事たちの方を見渡して言った。
 「……原山君、小西君、清原君、どうだろう? 私の気持ちが、わかるだろう」
 理事たちは、少々頷き、あとは黙っているしかなかった。彼らも、一応、青年たちのいい調子に合わせていたからです。
 戸田は激昂を静めて、また話を続けた。
 「いいか、もう一度、言っておく。一教団の首脳を、少しばかりやり込めたからといって、こうものぼせ上がり、たちまち騒慢になる君たちの性根を思うと、私は悲しいのだ。……いいか、広宣流布とは、崇高なる仏の使いの戦いなんだ。
 君たちが、どうしても行きたいというなら、もよかろう。教えの誤りがあれば、正すことは必要だからだ。しかし、他教団の本部だから、特別の折伏行だなどと勘違いしては困る。一婦人が、相手の幸せを思い、真心込めて対話し、隣家の人を救う方が、よっぽど立派な実践です。
 こんなことを、幾度も繰り返して、それで広宣流布ができると思ったら、とんでもない間違いだ。今は、将来、真実に人びとを救い、指導していけるだけの力を養っている訓練段階だと思わねばならない。将来の本格的な広宣流布のための実践を、そんな、遊び半分のようなものと思っていては大変だ。三類の強敵との壮絶な戦いなのだ。
 その時に、退転するなよ。今、いい気になっている連中は、大事な時になって退転してしまうものだ。
 私は、君たちを、本格的な広宣流布の舞台で活躍すべき時に、退転させたくないから、今、叱っておく。よく覚えておきなさい」
 戸田は、諄々とした言葉で語った。青年たちの目は、次第に赤らんできていた。
 同じ折伏の行動であっても、その一念は、人によってさまざまである。広宣流布を願つての真心の折伏もあれば、英雄気取りの言説もある。戸田は、それを見抜いていた。事実、戸田の注意が的中し、後年、この青年たちのうちから、退転者が出ることになるのである。
 戸田は、最後に、青年たちを見渡して言った。
 「自己の名誉のみを考え、人に良く思われようとして、活動する人物であれば、所詮は行き詰まってしまう。詐欺師に共通してしまうよ」
 そして、うなだれて涙ぐむ青年たちに言った。
 「戦さに勝ったと帰ってきて、泣く男があるか。……おや女性もいたな」
 彼は、三川や、今松の方を見て、カラカラと笑った。座には、師弟の厳しい指導のなかにも、情愛こもる温かい空気が流れていた。

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