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日蓮大聖人・池田大作

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光と影  

小説「人間革命」1-2巻 (池田大作全集第144巻)

前後
11  戸田城聖は、二月二日、夜の法華経講義のあと、質問に答えて言った。
 「要するに、医者で治るような病気は、医者で治せばいいのだ。しかし、医者で治らない病気、これが人生の難問です。だが、いくら難問でも、これを解決できる法がある。絶対に治すことができる、と言ったらどうだろう。
 それと同じように、ストライキで解決のつく問題は、ストライキで解決すればよい。経済闘争といい、政治闘争といい、みんな一生懸命だが、それで解決するような問題は、どしどし解決するがいい。
 だが、それはまだ簡単な問題といえる」
 受講者たちは、固唾をのみ、真剣な表情である。
 戸田の話は続いた。
 「ところが、どうしても解決できない、重大問題がある。そういう問題を人は諦めてしまう。だが、よく考えてみると、人間の性格や宿業をはじめとして、一家の家庭の問題や生老病死など、解決できない問題の方が、意外に多いものだ。
 社会といっても、また大衆といっても、あるいは労使と分けても、所詮は一個の人間から始まって、その集団にすぎない。ゆえに、この一個の人間の問題を根本的に解決し、さらに全体を解決できる法が大事になってくる。それは、真実の大宗教による以外にないんです。
 今度のゼネストのようなことも、今後、いろいろ形を変えて起こってくるだろう。そして、そのたびに一喜一憂してみるがいい。どうやっても、こうやっても、だめだとわかった時、やっと、大聖人様の仏法のすごさというものが、しみじみと、わかつてくるにちがいない。深刻なる理解をしないでは、いられなくなる。その時が、広宣流布です。
 われわれの戦いは、今、こうしてコツコツやっているが、すごい時代が必ず来るんだよ。ゼネストなんか、今、諸君は大闘争だと思っているかもしれないが、われわれの広宣流布の戦いから見れば、小さな小さな戦いであったと、わかる時が、きっと来る。私は断言しておく。皆、しっかりやろうじゃないか」
 西神田の日本正学館の二階は、薄暗かった。厳冬の電力不足が原因である。
 そのなかで戸田城聖の声は、生き生きとしていた。みんなは、手に汗を握って聞いている。そこには、暗い必死の面影はなく、明るい希望の表情があった。
 日本国中の人びとが、労働者のゼネストの危機に頭を悩まし、憂いに沈んでいた時、戸田の心は微動だにしなかった。それは、戦時中、国中が軍国思想に狂奔していた時、彼の心の重心は、いささかの微動もなかったことと同じであった。
 かくて、敗戦の暗影が、いまだ色濃い時代のなかで、一条の光明にも似た広宣流布への指標が、一つ一つ示されていった。彼には、民族の柱としての不抜の確信が、心中深く秘められていたのである。

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