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日蓮大聖人・池田大作

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幾山河  

小説「人間革命」1-2巻 (池田大作全集第144巻)

前後
13  列車は、西那須野駅構内に入った。そこで東北本線に乗り換え、そして小山駅に着いて、今度は両毛線に乗り換えた。
 桐生駅には、二、三人の顔見知りの同志が出迎えていた。
 一行は、この地方都市の繁華街にある、古くからの信徒の家に案内された。宮田という姓である。疎開した学会員の山田や、野口や、鬼頭たちは、戦時中、灯火管制下にあっても、座談会を、折々、開いていた。なんとか信心の火を絶やさず、守ってきたのである。
 戸田は、宮田宅で、さっそく勤行を始めた。この地には、日蓮正宗の寺院もあったが、驚いたことに、経文の読めない信徒が大部分であった。
 小憩し、座談会場になっている、最近、信心を始めたという水田宅へ赴いた。
 戸田は、道々、しきりと三島由造に話していた。
 「ここの信心は濁っているな。すっきりさせなければ、いずれ大変なことになるだろう。三島君、ひとつ、せっせと通って、厳しく指導してやってくれたまえ」
 「はい!」
 三島は答えた。
 すると戸田は、駄目押しするように、強い口調で言った。
 「しかし、骨が折れるぞ!」
 三島は、この時、何も気づかずにいた。だが、この方面の信心が軌道に乗るまでには、事実、数年の歳月が必要であった。
 座談会には、十人の人が集まっていた。そのうち、未入会の参加者は、一人だけであった。
 戸田は、一人ひとりに、和やかに話しかけた。おのおのの生活状態を聞き、懇切な指導をしていった。そして、日蓮大聖人の仏法の峻厳さと、慈悲の深さを説いた。
 最後に戸田は、広宣流布への並々ならぬ決意を話って、話を結んだ。
 「広宣流布は、戸田がやる。誰にも渡さん。みんな、しっかりついて来なさい。必ず無量の福運を積むことができるんですよ」
 未入会の一人は、信心をすることになった。
 地方指導を終え、桐生を後にした一行の心は、晴れ晴れとしていた。
 帰りの列車は、立錐の余地もないほどの混みようであり、身動きもできなかった。
 戦後第一回の地方指導は、手探りにも似た状態でスタートしたが、広宣流布の新たな突破口を開いたのである。
 戸田の胸は、深い感慨に満たされていた。それは、いかなる山河も、勇気をもって歩みを運ぶならば、必ず踏破することができるという確信であった。弟子たちも、その確信を深めたのである。

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