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日蓮大聖人・池田大作

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はじめに  

「新しき人類を」「学は光」V・A・サドーヴニチィ(池田大作全集第113巻)

前後
1  二十世紀から二十一世紀てさらにまた「第二の千年」から「第三の千年」へ――。人類は新たな知的探究の旅を開始した。
 私たちは、前世紀から持ち越された難題を、そのまま次の世代には引き継ぎたくない。今、育ちつつある青少年たちのために、そして、これから生まれ出づる「未来からの使者」のために、世界の英知を結集して、解決の糸口を見出していきたい。
 この強い決意を、私は、モスクワ大学の尊敬するV・A・サドーヴニチィ総長と深く共有している。
2  世界的な数学者であるサドヴニチィ総長は、ロシア科学アカデミー正会員、ロシア理工学アカデミー会員でもあられ、ヨーロッパ大学総長会議の議長等の要職を務めてこられた超一級の知性であられる。
 青春時代には、地下六百メートルの炭坑で死と隣り合わせの中で働きながら苦学をされた方であり、青年への慈愛はまことに深い。
 総長が、これまで発表された著作は五十冊、論文は三百本。「宇宙飛行をシミュレーションした論文」も、その一つとして有名である。この研究成果によって、宇宙飛行士は、無重量状態など、宇宙飛行のすべての段階を、地上で模擬体験できるようになり、現在でも訓練センターで活用されているという。
3  一七五五年の七月二十六日、幾多の試練を越えてモスクワ大学を創立した、ロシアの大科学者ロモノーソフは叫んだ。
 「私は、死を恐れない。私は、生き、耐えてきた。祖国の子孫が、私のことをいたわってくれることを知っているからだ」
 この創立者の精神を受け継ぐサドーヴニチィ総長もまた、教育に命を懸けておられる。ソ連崩壊後の一九九二年、総長に就任されて以来、激動の時流の中で、母校であるモスクワ大学を、厳然と護り抜いてこられた。
 「人間性に富む、心強き人を育てること、そして『人間的な社会』へと発展させる人材を輩出することが大学の使命である」
 これが、総長の揺るぎなき信念である。
 私がモスクワ大学から招聘をいただき、ロシアを初めて訪問したのは、一九七四年であった。
 「なぜ、宗教否定の国に行くのか」――当時、渦巻く批判に対して、私は答えた。「そこに人間がいるからです」
 この三十年来、三代の総長とも知遇を得て、モスクワ大学と創価大学との教育・学術交流を着実に進めることができた。相互に往来した交換留学生と教員も、二百人を超える。
 一九九四年の五月、ロシア桜(ヴィシュニャの花)の咲くモスクワ大学で、私が二度目の講演を終えたあと、サドーヴニチィ総長は、ピョートル大帝ゆかりの大学構内の植物園で、白樺の苗木を記念に植樹してくださった。
 「今はまだ小さな木ですが、十年、二十年、何十年とたつうちに、高く大きな木に育つでしょう。(中略)そして、学生たちに、心と心を結ぶ、この友情が、どのようにしてできたかを教えることでしょう」(「聖教新聞」1994年5月19日付)。忘れ得ぬ総長の友誼の言葉である。
4  総長と私は、この対談集で、新世紀に直面する哲学的な命題、また文明論的な課題として、三つの架け橋の構築を試みた。
 すなわち、一つは「知識と知恵」、二つは「自由と平等」、そして三つは「伝統と近代化」である。この拮抗し、対立し、背反しているかに見える、それぞれの要素の間に、いかに橋を架け、融合させていくか。
 対談時に勃発したアメリカでの「同時多発テロ」をはじめ、世界の緊迫した動静について意見を交わしながら、その架橋作業をめぐり語り合ったのである。
 「人間を分断するあらゆるものは悪であり、醜悪である。
 人間を結合するあらゆるものは善であり、美である」(Л.Н.Толстй, Полное собрание сочинений, Том 64, Художественная литература.)
 これは、総長と私が共に愛する文豪トルストイの至言である。
 あらゆる差異を超えて、文明と文明、人間と人間を結び合わせていくためには、「対話」と「交流」を粘り強く、断固として積み重ねていくことだ。
 そこにこそ、新世紀の世界の青年が闘歩しゆく、「平和」と「文化」と「教育」の宝橋が盤石に築かれゆくことを、私たちは確信する。
 モスクワ大学は、世界最高峰の名門の輝きをいや増しながら、まもなく創立二百五十周年の佳節を堂々と飾られようとしている。
 本書のロシア語版は、その記念の出版として、今秋、発刊される運びである。
 総長との有意義な語らいは、尽きることがない。「教育と人間」「大学と社会」を基軸としながら、今も続いている。今後、日本語版の第二集も発刊される予定である。(『学は光』。本巻収録)
 ともあれ、この一書が、ロシアと日本の友好を増進するとともに、二十一世紀の「新しき人類」を、そして「新しき世界」を創出しゆく一助となるととを、念願してやまない。
 末筆ながら、対談の折々に、お世話になった最優秀の通訳の方々へ、心からの感謝を申し上げたい。とくに、モスクワ大学に留学した創価大学の卒業生たちが勇んで通訳の労を執ってくれたことは、創立者として、これに勝る喜びはない。
 2002年4月3日  サドーヴニチィ総長の誕生日に寄せて    池田大作

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