Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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空万葉の故郷・奈良 歌え! 進め! 新世紀の春を呼べ

1999.9.6 随筆 新・人間革命2 (池田大作全集第130巻)

前後
1  そこには、詩があり、歌があり、歴史があった。
 ある万葉の歌人は詠んだ。
 「あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり」(『万葉集』伊藤博校注、角川文庫)
 その″万葉の故郷″奈良は、長く私の心の憧れであった。
2  小学六年生の時、私は修学旅行で、初めて奈良へ行った。五月、あるいは六月だったかもしれない。伊勢、奈良、さらに京都を回る、四泊五日の旅であった。
 ともあれ、春から初夏に向かう季節、緑の光る奈良の若草山を駆け回ったり、可愛い鹿たちと戯れたり、猿沢池に遊んだことは、今なお懐かしい。
 その次に訪れた奈良も、春の若草山であった。
 一九五六年(昭和三十一年)の四月二日のことである。あの大阪の法戦に奔走するなかにつくった、一時の″忙中の閑″であった。わずか二十分ほどであったが、青年とともに花と緑の絨毯に横になり、春霞の大空を見つめながら、呼吸した。
 さらに、その五年後、堂々たる創価の宣言となった、奈良支部の結成大会も、若葉のまばゆい五月であった。
 こうしたことから、私には、奈良といえば、「春」の印象が強いようである。
3  若草山は、毎年一月十五日に山焼きが行われ、寒風のもと、一面の焼け野となる。
 しかし、春が来ると、全山、生き返ったかのように、若芽が伸び、見る見る鮮やかな若草色に染め上げられていく。
 まさに、「妙とは蘇生の義」の法理を証明するかのごとく。
4  宿命の氷壁に閉ざされたかのような冬の人生も、わが心の空に太陽が昇る限り、冷酷な壁をとかすことができる。誰でも、わが「人生の春」「幸福の春」を勝ち取り、謳歌する権利がある。そのために宗教があり、信仰があるのだ。
 「生きた宗教」とは、人間に生きる希望、生きる勇気、生きる歓びを与える太陽だ。
 「今日蓮が唱うる所の南無妙法蓮華経は末法一万年の衆生まで成仏せしむるなり」とは、蓮祖大聖人の「人間のための宗教」の大宣言である。
 この真実の信仰ある限り、人生に絶望の闇は、断じてない。
 ある婦人に、「我れ等は仏に疑いなしとをぼせば・なになげきか有るべき」と、明快に仰せの通りである。
 そして、「生きた宗教」とは、民衆の苦悩と真正面から対決し、さらに、その苦しみを生み出す悪と戦う宗教だ。
 アメリカの人権闘争の勇者・キング博士は言っている。
 「ひとびとを、この世の地獄とも言うべき惨めな状態に陥し込んでいる社会的諸条件には、目をつむらせ、ただ天国の栄光だけを牧師にほめたたえさせている宗教があるとすれば、それは〈ほこりのように無味乾燥な〉宗教である」(『黒人はなぜ持てないか』中島和子・古川博巳訳、みすず書房)
 創価学会は、永遠に「生きた宗教」として、人間の幸福のため、人間の尊厳を守るために、民衆の海の真っただなかで戦い続ける。それゆえに、いかなる迫害を受けるとも――。
5  私の″会長勇退″から二年半が過ぎた一九八一年(同五十六年)の十一月のことである。
 遂に、私は、学会破壊の策謀の網を破り、宗門の邪悪な鉄鎖を断ち切って、一人、獅子として立ち上がった。
 そして、関西の同志と、創価の万歳を叫びつつ、和歌山から五條を通り、橿原の明日香文化会館へ入った。
 「万葉の詩 ともどもに」と謳い上げた「紅の歌」が、四国で誕生した直後であった。
 支部結成二十周年を記念する自由勤行会の席上、私は、奈良の初代支部長をされた故・有馬猶二郎さんに、一言、挨拶をお願いした。
 すると、有馬さんは、「私は話が下手ですから」と、「春が来た」を歌い始められた。
 有馬さんは、一九五五年(同三十年)に夫妻で入会。あの支部結成の時には、自宅の塀に「有馬のばかやろう! 恥を知れ!」と黒ペンキで落書きもされた。
 しかし、いかなる「三障四魔の嵐」にも微動だにせず、正義の太陽とともに、愛する同志とともに歩み抜いてこられたのであった。
 「春が来た」は、この十二年前(一九六九年)の九月、奈良の幹部会の折に、私が呼びかけて、皆で歌った思い出の歌でもあった。
 七十歳の有馬さんのはつらつたる歌声は、やがて、会場の全員の歓喜の大合唱となり、「奈良に春が来た!」と、断固として、苦難の冬を勝ち越えた、生命の勝鬨が轟いたのである。
6  創立五十五周年(一九八五年)の春、「立宗の日」の四月二十八日には、奈良の青年平和文化祭が開催された。
 美しき花の奈良は、三千百人の若人が躍動する、荘厳なる人華の舞台となったのであった。
 われらの万葉の緑野は、地涌の菩薩が、敢然と躍り出る、新しき民衆の文化の大地である。
 そして、「人間賛歌」の平和の世紀へ、新しき旅立ちの天地である。
 そこでは、嵐に打ち勝った勇者の凱歌が、常に響いている。
 今、奈良の同志は、盤石にして無敵の陣列を組みながら、二十一世紀という、絢爛たる「生命の世紀の春」へ、千軍万波と、大前進を開始した。
 この地から新時代の「友情のシルクロード」をと、壮麗なる奈良国際友好会館も、歴史の都に、平和と文化の宝光を放っている。
 さあ、同志よ! 民衆の心と心を結びながら、人間勝利の「ルネサンスの春」を!
 明るい、明るい空が、創価の「永遠の都」の上に、晴れ晴れと広がっている。

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