Nichiren・Ikeda

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日蓮大聖人・池田大作

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童話に託す願い 未来からの使者に「心の宝」を

1998.5.13 随筆 新・人間革命1 (池田大作全集第129巻)

前後
1  きらめく新緑の五月。
 私は、今月から小学生文化新聞に、モンゴルを舞台にした創作物語『大草原と白馬』の連載を開始した。
 一九七四年(昭和四十九年)に『少年とさくら』を発表してから、創作物語は十八作目となる。
 かつて、戸田先生は私に言われた。
 「大作、二人でモンゴルの草原を、馬で走ってみたいな」
 東洋の、世界の平和を願い続けておられた先生の、その言葉が忘れられない。
 憧れの天地モンゴルの、果てしない大草原。無限に広がる大空……。
 私も、未来からの使者である子供たちと、この雄大な世界を走りたい。心の青空に、勇気と希望の風を送りたい――そうした思いで、この『大草原と白馬』のペンを執ったのである。
2  馬というと、七年前、キルギスタン共和国(当時)の副首相をされていたドゥイシェーエフ氏が贈ってくださった、駿馬「青年号あおとごう」のことが思い出される。
 北海道・別海の同志が受け入れの準備をし、到着の日を待っていた。ところが、日本の厳しい検疫で、馬は入国できず、故郷の草原に帰っていった。
 私は、今回の創作物語を通して、少しでも、あのドゥイシェーエフ氏と北海道の友の真心に報えればと思う。
 私は、さっそうと大草原を駆け回る「青年号」の姿に胸を熱くしながら、この童話に取り組んでいる。
3  振り返れば、戸田先生の出版社に入って、最初に任された仕事が、少年雑誌の編集であった。
 一九四九年(同二十四年)五月、若き編集長となった私は、世界の有名な童話も紹介していくことにした。
 生来、大好きな子供たちの、夢の翼を育みたかった。
 後に、私の小説『人間革命』の挿絵を担当されることになる三芳悌吉画伯にも、「シンデレラ」の物語の挿絵を描いていただいたことが懐かしい。
4  ある時、雑誌の前の号で予告した「ペスタロッチの少年時代」の原稿が、間に合いそうもなくなった。
 執筆予定の作家は、連載小説を一本、持ってくださっており、催促するのも申し訳ない状況であった。
 予告に載せた以上、読者を裏切ることはできない。
 私は、子供たちに語りかける気持ちで、自らスイスの大教育家ペスタロッチの伝記を、一気に書き上げた。
 そんなことが、やがて童話を書く、機縁になっていったのかもしれない。
5  三年ほど前、アメリカの「児童文学作家人名録」に、三ページにわたり、私のことが紹介されていた。
 そのなかで、私の作品について、「困難に直面した時の希望と忍耐の大切さを表している」と評してくださった。創作の意図を、的確に読み取っていただいたことが嬉しかった。
 私の童話が海外にも紹介されるようになったのは、童画家として世界的に著名な、ワイルドスミス氏の尽力によるところが大きい。
 氏は、『雪国の王子さま』など、私の四つの作品の絵を描いてくださった。
 「鮮やかな色彩のシンフォニー」と称えられる、その絵のすばらしさには、感嘆するばかりである。
 一九八八年(同六十三年)、聖教新聞社で、初めて、お会いした時、私は尋ねた。
 「子供たちが、心の奥底で一番求めているのは何でしょうか」
 氏は、即座に答えられた。
 「それは『幸福』です」
 本質を射た、明快な答えである。全く同感であった。
6  「幸福」は、心の花園に咲く。豊かな心、強い心の大地にこそ、幸福の大輪は花開く。
 しかし、エゴイズムと拝金主義の、殺伐とした精神土壌には、夢も、ロマンも育たない。
 また、何が正義か、何が人生にとって本当の「宝」かを、明確に語れる大人も少ない。
 少年少女の心の退廃は、人類の衰退に通じよう。
 ゆえに私は、子供たちの心の大地を耕し、種を蒔こうと思った。正義の種、勇気の種、希望の種、努力の種、そして、優しさの種を。
 その挑戦の一つが、童話の執筆であった。
7  未来からの使者である少年少女が、白馬に乗って、二十一世紀の大草原を駆ける日は近い。
 その日を思い描くと、わが胸には、希望の鐘が、高らかに鳴り響く。
 その子供たちのために、「心の宝」を伝え残すことこそ、私の切なる願望であり、また、大人の責任であると思っている。

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