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日蓮大聖人・池田大作

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2 中国文明の精神的遺産  

「東洋の智慧を語る」季羡林/蒋忠新(池田大作全集第111巻)

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1  「共生のエートス」
 池田 重ね重ね、恐縮です。両先生をはじめ、中国の方々と交流して強く感じることがあります。それは、トインビー博士が「中国文明の精神的遺産」と言われた”数々の美質”が、社会の激動を貫いて、形を変えながらも、見事に発揮されている事実です。
 遺産の一つは、「大同」思想に集約される「共生のエートス」です。他者と、また自然と「共に生きる」という精神です。
  そうですね。私は思うのです。人類はすでに二十一世紀を迎え、少しは賢くなってもよさそうなものだと。しかし、現実はそうなってはいません。
 西洋は相変わらず自然を「征服」しています。それにもかかわらず、このような「征服」がもたらす災害については、顧みません。たとえば、温室効果、オゾン層破壊、地球温暖化、氷山溶解、生態系バランス破壊、新疾病の多発等々です。
 今日のみならず、今後も人類が生存し続けたいと思うならば、西洋人を代表とする人々は必ず前非を深く悔い改め、大自然との調和と友愛を強調すべきであり、みだりに自然を「征服」しではならないのです。
 池田 私は、季先生の言われる「西洋を代表する人々」とは、西洋だけでなく「全世界の人々」にも当てはまると思っています。
 近代西洋文明の恩恵に浴することは、同時に、それぞれの文明が築きあげてきた人間と自然の共生を手放すことでもありました。日本とて例外ではありません。
 環境破壊は、とうとう人類という種の存在を脅かすところまできています。大自然と調和し、平和に共存していくことができるかは、人類にとって、生存にかかわる問題になっています。
 そのために必要とされる「共生のエートス」が、中国思想の精髄である「天人合一」論の中に脈打っていると、私は思います。
2  「天人合一」と「依正不二」
  そうです。東洋の「天人合一」の思想、「民胞物与」(北宋時代、張載ちょうさいの「西銘せいめい」中の言葉。民を兄弟と見なし、万物を友とすべきとの意)の精神を実行してこそ、人類を救うことができるのです。さもなければ、大自然は、人類に対する報復をさらに強化し、人類の前途は、危ういものとなるでしょう。
 池田「天道と人道は、その根本で一致しており、人間は心や性の中に、天の性質、徳をそのままもち合わせている」とする「天人合一」論は、中国思想の人生論、宇宙論の根幹をなしています。
 一方、仏教では、大宇宙、大自然と人間生命との関係性を「依正不二」論として展開しております。
 前にも述べましたが(第五章)、「依報」としての環境と「正報」としての人間生命は、その根本において「不二」であり、そこから現象世界における相互依存の関連性が「而二」として顕在化してくるという哲理です。
 表現は異なりますが、大自然と人間との関係性を示す哲理は、「天人合一」論と同趣旨であります。
 そこで、ここでは、中国思想としての「天人合一」論と仏法思想の「依正不二」論を機軸に、東洋思想の精髄に光をあてたいと考えております。
  「天人合一」論は中国哲学史上、非常に重要な命題であることは言うまでもありません。とはいえ、「天人合一」への理解、解釈、説明には学者によってかなりの相違があり、学者間の理解の深さ、広さ、角度も必ずしも一致していません。
 もっとも、哲学史上の命題について、解釈が完全に一致しないのは当然のことなのですが。

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