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日蓮大聖人・池田大作

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7 中印学の柱  

「東洋の智慧を語る」季羡林/蒋忠新(池田大作全集第111巻)

前後
1  ナーランダ仏教遺跡
 池田 季先生はこれまでインド、日本、ドイツなどを訪問し、文化・学術交流に尽力してこられました。
 なかでも、中国とインドの文化・学術交流に多大な貢献をしてとられた。「中印文化交流の橋を築いた人」「中印学の巨大な柱」とも評されております。
 インドと中国の文明は、世界の大文明です。歴史は長く、また不断に発展してきた偉大な文明です。
 この両文明の活発な交流のなかで、仏教がインドから中国に渡りました。譚中たんちゅう氏(インドのインディラ・ガンジー国立芸術センター教授・顧問)の研究によると、仏教の教えとともに、天文、数学、暦算、技術、音楽、美術、舞踊、気功、武術、木綿、糖なども伝えられました。
 季先生は『中印文化関係史論叢』『インド古代言語論集』などの著作、『ラーマーヤナ』などの翻訳を発表されております。
 また、何度もインドを訪問されておりますね。
  ええ。私はかつて六回インドを訪れ、手厚いもてなしを受けました。
 インドは古い文化の国です。そして、インドで生まれた仏教は、アジア全体および世界に影響を及ぼしました。
 池田 季先生は、ブッダガヤにも行かれた。アジャンターなどの仏教遺跡にも行かれた。ナーランダーにも行かれましたね。
  はい。ナーランダーは、数百年間にわたって仏教学の中心であったばかりでなく、インドの学術の中心でした。
 晋代から唐代にいたるまで、法顕、玄奘、義浄など中国の多くの高僧もここを訪れ、学問を探究しました。
 また、さまざまな国から、千里万里を遠しとせず、九死に一生を得てインドにやって来て、ここに一堂に会し長期間、研究しました
 ナーランダーの遺跡に立ったとき、私の目には、そうした堂々として華やかな当時の状況が浮かんできました。
 幾万の僧侶や学生が、仏教の経典やインドの伝統的な科学、宗教理論、、および哲学理論を一心に研究している姿が目に見えるように思われました。
 当時のナーランダー寺院全体は、現在のオックスフォード、ケンブリッジ、パリ、ベルリンなどの有名大学を、はるかにしのいでいました。
 サンスクリットの読経の声は遠く空の果てまで響きわたり、白檀の線香の煙は軒端をゆるやかに立ち昇り、夜間も灯火がこうこうと灯り、それは朝まで輝いていました。
 私はナーランダーを訪問し、身を捨てて法を求めた玄奘らの高僧に対し、心から限りない尊敬の念がわき起こるのを、抑えることはできませんでした。
 中国とインドの両国人民の友誼を深めるために、玄奘が果たした貢献は、計り知れないものがあります。
 実際に、玄奘は中国とインドの友誼の象徴となっております。また、これからも両国人民の心の中に生き続けることでしょう。
2  長安の都
 池田 私もナーランダーに行きました。一九七九年、三回目のインド訪問でした。写真で見たよりもはるかに広大であり、精巧なのに驚きました。
 季先生がおっしゃったように、最盛時には、各国から集った、一万人の若き求道の学生と一千人の教授が、ここで生活したと言いますね。
 千数百年も前にレンガでつくられた遺跡の数々を見て回ったとき、師匠と弟子との間で行われたであろう、火花を散らすような真理の探究と厳格な人格の鍛錬を思い浮かべ、私も深く感動しました。
 また、玄奘と言えば、西安の大慈恩寺を訪れる機会がありました。一九七四年、第一次訪中のときでした。往時、世界的な大都市であった大唐の長安の都です。玄奘がインドから持ち帰り、大慈思寺などに多くの英才を結集して翻訳した仏典は、じつに七十五部千三百三十五巻という膨大な量でした。
 これらの叡智を学びたいと、日本からも遣唐使節の留学生などが、木造の船で万里の波溝を乗り越え、生きるか死ぬかの危険をおかし、大慈思寺に学びに行きました。
 中国側の記録では、遣唐使節の総計は二千百四十二人にものぼったとのことです。
 日本人の留学生が、はるばると中国を訪れたのも、また、中国の学僧が、辛苦の限りを尽くしてインドに旅したのも、学問、文化を必死になって摂取してわが血肉とし、多くの民衆に尽くしていこう、という同じ心であたにちがいありません。
 また、インドの高僧は仏教を中国へ伝えるため、中国に骨を埋める覚悟で祖国を旅立ち、険難の幾山河を越え、長安に向かいました。
 貴国の鑑真和上はわが国の留学生の要請を受け、「是は法事(=仏法を説き弘めるとと)のためなり、何ぞ
 身命を惜しまん」(安藤更生『鑑真和上』吉川弘文館)と、艱難の末、日本に来てくださいました。
 文化の伝播、交流というものは、先人の尊き苦闘、必死の努力によってなされてきました。私は、深い敬意と感謝の念を禁じえません。
 優れた文化・芸術は人間の心を結びます。国境も体制をも超えて、人々を共通の「感動」で結びつけます。”文化の道”は美しい人間性と智慧の花咲く道です。魂の道です。ゆえに、平和の道でもあります。
 私どもも、「創価大学」や「東洋哲学研究所」「民主音楽協会(民音)」「東京富士美術館」等を通し、貴国をはじめ世界の多くの国々と、教育、学術、芸術、文化の交流を誠心誠意、推し進めております。

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