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第二章 日本と香港――「環太平洋文明」…  

「旭日の世紀を求めて」金庸(池田大作全集第111巻)

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10  「環太平洋地域の連帯」を展望して
 池田 恐縮です。深いご見解、鋭い歴史観に敬服します。中国のもつ潜在的な力と文化の厚みは、米中の劇的な国交回復を主導したキッシンジャー博士も、私との対話でつとに口にしていたことです。
 そのうえで私は、今、先生が言われた「中日同盟」の前提について、少し触れさせていただきたいと思います。
 金庸先生もご指摘のように、ひと口に「平和な世界」といっても、いっぺんにはできません。国と国との連帯なり、地域的なまとまりなりの延長上に、平和な「一つの世界」があるわけです。その平和な「一つの世界」をつくっていくためには、どんな地域のまとまりというか、枠組みが考えられていくべきか。私も、ずっと考えてきました。世界の識者の方々とも対話してきました。
 そこで、以前から強い関心をもっているのが、政治や軍事、経済に限らず、広く文化一般まで展望した「環太平洋文明」という視点です。環太平洋という地域には、日本、中国はもちろん、東南アジアやオーストラリア、南北のアメリカ大陸諸国も含まれます。一説には、世界の人口の約六割が、この地域に住んでいるともされます。当然、民族も文化も言語も多種多彩です。親しく交流した歴史すらないところもある。
 しかし、もし、その連帯が実現できるなら、まったく新しい「世界文明」の可能性を引き出していくことができる。なんとか太平洋を人類融合の「実験の海」にしていくことはできないかと、私は常々思ってきました。
 金庸 壮大な発想ですね。
 池田 かつてクーデンホーフ・カレルギー博士と語り合いました。EU(ヨーロッパ連合)の生みの親と言われる方です。
 博士は、「現代はヨーロッパ・アメリカ文明の大西洋から、次第に新しい太平洋文明に移行していく過渡期」であると指摘されていました。トインビー博士も同じように、太平洋文明の到来について語っておられた。
 両博士とも、「平和で、開かれた太平洋文明」を展望されていました。
 教育学・地理学の泰斗でもあった、私ども創価学会の牧口常三郎初代会長も、早くから環太平洋地域の重要性に注目しておりました。処女作の『人生地理学』(一九○三年刊)では、日本の位置を「太平洋通り〇〇丁目」といった表現で、わかりやすく示しています。
 「平和な、一つの世界」を見つめ、そのための「環太平洋地域の連帯」を展望する。そのうえで、日中両国の関係が果たす役割は非常に大きい。この意味から言って、日中間の多角的な協力関係は重要ですし、大いに進めていくべきだと思うのです。何しろ中国と日本は、「太平洋通り」では、丁目の違いどころか、番地の違いぐらいに近接しているのですから。
 金庸 よくわかりました。ともあれ、このような中日関係を含めた大仕事のなかで、香港がまず、中国の先駆としての役目を果たせればと希望しています。経済面にしても、日本がもし、善意をもって香港との協力を強化できれば、中国の信用と善意を増すことができ、巨大な協力関係に向けて邁進できる可能性が出てくると信じています。
 池田 香港には、多様な文化を受け入れ、諸民族の「共生の道」を模索してきた歴史があります。観念ではなく、実体験の蓄積があります。その香港の方々と信頼を結んでいけるかどうかは、日本の国際化の試金石でもあるのです。

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