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日蓮大聖人・池田大作

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東洋の復興と英知の回復  

「内なる世界 インドと日本」カラン・シン(池田大作全集第109巻)

前後
1  池田 近代以後、東洋は、ヨーロッパ列強の力の前に屈従を余儀なくされ、その帝国主義的支配のもとに苦しみました。これは、ヨーロッパ諸国が科学技術を発展させ、その物質的力を増大した結果であるわけですが、二十世紀に入って二度にわたる世界大戦を経験して、ヨーロッパ諸国自身が、この物質的力がいかに恐ろしいものであるかをわが身で感じたといえましょう。
 しかし、その悲劇ののちも、物質的力の魔力は、アメリカとソ連の主導のもとに、ますます強大化し、人類全体の生存を脅かすまでになっています。かつて、この魔力を生みだしたヨーロッパは、脇役の地位に追いやられ、その力に脅かされる立場となっています。
 他方、このヨーロッパの相対的地位低下にともなって、かつてヨーロッパの支配下に苦悩したアジア・アフリカの諸民族は、次々と独立国となったものの、経済力は弱く、政治的にも混乱から抜けきれず、完全な自立・発展に成功している国は、わずかしかありません。
 米ソ超大国、ヨーロッパ諸国、アジア・アフリカ諸国と、それぞれに抱えている課題は、さまざまであるにせよ、人類は今や一つの運命共同体であり、たがいがそのもてる力を出しあって、重畳する難題の解決と、未来を開拓する仕事に取り組んでいかなくてはならないでしょう。
 これまでに述べてきましたように、東洋、とくにインドは、その意味で、豊かな精神文明を伝承しており、人類の未来のために大きく寄与しうる力を有していますが、そのためには、今、現実に抱えている物質的困窮や社会的混乱が、あるていど解決され、人々の力が発揮される条件がととのえられなければならないと考えます。
 現代の世界において、東アジアでは中国が、南アジアではインドが、米ソ二大国をはるかに凌ぐ人口を擁し、しかもともに数千年という文化的伝統に裏づけられて、多くの国々にとって盟主としての位置を占めています。
 インドの発展と世界への貢献は、他のアジア・アフリカ諸国に対しても、大きな影響をあたえることは間違いありません。博士は、インドの未来について、どのような展望をもっておられますか。
 それとともに、インド、中国、日本といった、東洋の国々が、そこに伝えてきた深い英知を人類の未来のために生かしていくためには、どのような努力をしていくべきかについて、お考えをうかがわせていただければ幸いです。
2  カラン・シン この対談のなかで繰り返し述べてきましたが、たしかに人類は今、かつてない最大の挑戦を受けております。世界の諸地域での小規模の紛争はさておいて、核兵器の拡散や長期化する米ソの対立は人類の未来そのもの、いやそれどころか地球の全生物に対して深刻な脅威をあたえております。この脅威の本来の性格からいって、インド、中国・日本を含む東洋の国々は否応なしに同じ危険にさらされています。
 現代は、東洋の英知が人類の状況にふたたび創造的転回をあたえることのできる時でありますが、それを進めるうえで基本とすべき三つの主要な路線があります。
 第一に、核の拡散に対するアジア諸国の態度を明確にする必要があります。十分起こりうることと思うのですが、もしアジアにおいて核兵器競争が始まったならば、私たちはもはや核軍縮について西洋諸国に説教する立場ではなくなるでしょう。
 この問題については世論を糾合し、アジアの諸国民に最低限の生活を保障するという緊急課題が、軍事支出の新たな急増によって脇のほうに追いやられてしまうことのないようにしなければなりません。
 第二に、アジアのさまざまな共同体相互の間に問題が生じた場合は、アジア地域みずからのイニシアチブによって、それを平和裡に解決することをめざさなければなりません。このことはアジアの貧困改善に、大いに必要とされる資源の解放という点からもよいことであり、さらにまた、西洋諸国に対するアジアの立場を大きく強めることにもなるでしょう。
 第三に、アジアは、米ソの和解をもたらす手助けをするために、できればいくつかの西洋諸国と共同してイニシアチブを取っていく必要があります。最近の、中東アジアの六カ国がイニシアチブを取って開催された「南アジア諸国連合首脳会議」は、この方向に向けての一つの好ましい進展です。
 これら三つは、本質的にはそれにかかわる国家の任務ですが、アジアの諸国民が植民地時代に弱体化してしまった相互理解の絆をふたたび築くことも必要です。たとえば数世紀にわたる外国による支配のために、インド・日本の両国民はアメリカのことは知っていても、たがいの国のことはあまり知っていません。私たちが行ってきたこのような対話は、両国民の相互認識と相互理解に多少とも貢献するものと考えてよいでしょう。
 結局、この地球上のすべての人間のなかにこそ新しい意識の砦を築かなければなりません。私たちの対話のなかで明らかになったさまざまの理念が波及効果をもたらし、二人がともに信奉する新たなグローバリズム(世界主義)の構築に役立つことを願いつつ、この対話を終えたいと思います。

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