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日蓮大聖人・池田大作

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現代の文明的課題  

「内なる世界 インドと日本」カラン・シン(池田大作全集第109巻)

前後
1  池田 これまで私たちは、東洋の偉大な英知の源泉であるインドに焦点を絞り、その流れをたどってきました。ひるがえって現代の世界を見るとき、それが直面している課題に、核戦争の脅威、資源の枯渇、環境汚染、道徳的頽廃等、さまざまなものがありますが、そのいずれも人類の生存を脅かす深刻さを秘めています。
 もとより、こうした問題に直接ぶつかっているのは、先進諸国であるわけですが、発展途上国も、これら先進諸国にならって物質的繁栄を追求していくならば、やがてはみずから、こうした諸問題のいくつかに直面することは間違いありません。すなわち全人類的課題であるわけです。
 これらの問題は、人間がみずから生みだした問題であるところに、いわゆる自然の暴威等による災害と異なる点があります。それゆえにこそ人間自身の生き方の変革が求められるわけですが、その生き方を変えるには強力な意識変革、精神的変革が求められます。そこに、これまでの物質主義的生き方とは異なる精神主義を伝える東洋の思想が注目される所以があります。
 私が信奉しているのは仏教であり、あなたがよりどころにされているのはヒンドゥー教であって、そこには、さまざまな考え方の違いもありますが、仏教も本来インドの風土のなかで呱々の声をあげたものですし、その思想は博士もいわれたように、ヒンドゥー教のなかに融け込んで、今日に伝えられています。
 仏教では、人間の生命を濁らせる元凶を貪欲と瞋りと癡かさであるとし、
 これを「三毒」と呼んでいます。そして、貪欲が自然の荒廃とそれによって起こる飢饉の根本であり、瞋りが人間同士の争い、戦争の根本である。また愚痴が心身にわたる病の根源であると説いています。そして、この生命浄化の法を教えたのです。
 こうした仏教の教えは、現代文明が直面している問題を解決するためのカギを秘めていると私は確信しています。博士はヒンドゥー教を信奉される立場から、このような現代文明に対して、東洋精神文明の果たすべき役割について、どのようにお考えになっていますか。
2  カラン・シン 今日、人類は未曾有の生態学的な危機に直面しております。過去一世紀のあいだ貪欲に自然を搾取してきた結果、生物圏は深刻な被害を受けております。そのうえ万が一、核兵器による大破壊があるとすれば、それは世界最後の汚染となり、人類のみならず地球上の何百万という生物の種が絶滅することになりましょう。現代に必要なことは、自然破壊は終局には必ず人類の自滅に帰着することを思い起こすことです。
 西洋には奇異な思想が広まってきました。つまり、人類はどういうわけか自然に対する「主権」を神から賦与されており、勝手気ままに無差別に自然を破壊し汚染することができるという思想です。これは東洋の世界観と正反対のものです。
 ヒンドゥー教と仏教に共通の信条は、人類は自然の一部であり、人類の繁栄は他のすべての生物の繁栄と切り離して考えることはできない、というものです。人間中心主義に徹した見方は、われわれは認めることができません。われわれ東洋人は生きとし生ける者は神聖であると信じておりますし、このことはヴェーダやウパニシャッドはもちろん、『法華経』はじめ多くの仏教聖典で繰り返し強調されているところです。
3  池田 仏教で説いている貪・瞋・癡の三毒に相当する考え方は、ヒンドゥー教のなかにもありますか。
 カラン・シン ヒンドゥー教では五大煩悩を説いています。肉欲、瞋恚、貪欲、妄想、慢心の五つです。これが人類が地球にもたらした災害の主な原因なのです。われわれはまた、これらの“毒”を根絶する道は個人個人の努力と長期にわたる内面的な修養しかない、という点でも同じ見方をしております。
 不幸にして、各国の政府が関係している場合には、これらの煩悩は百万倍も増幅されるため、解決は極端にむずかしくなります。
4  池田 そこに、宗教も宗教的領域だけに閉じこもっていてはならない所以があります。大事なことは宗教の理念を現実の政治・経済等の営みのなかに、どう反映させていくかです。
 カラン・シン 私が見るところでは、東洋の精神的遺産は人類の前に立ちはだかっている数々の大問題を解決するのに大いに役立ちます。ただし、この遺産の根本原理が多くの人々に受け入れられればの話ですが。
 このように見てくると、ジャワハルラル・ネルーが提唱した「パンチャ・シーラ」(平和的共存の五原則)や、非同盟運動(NAM)が二国間紛争の解決に武力の行使を否認することの重要性を繰り返し訴えた宣言は、重大な問題に対する東洋的な態度の反映です。
 われわれは二つのレベルで努力する必要があります。個人のレベルでは、われわれの意識や日常活動のなかにある、これらの“毒”の作用を弱めなければなりません。一方、集団のレベルでは、われわれは友情と相互尊重を基調とする正義と公正の世界を実現するために努力すべきです。
 その基調となるべき概念は地球の一体化です。われわれ東洋の伝統にあっては、地球をたんに土や石や水といった物質の塊とは見ておりません。地球は一個の精神的実在であり、原始の泥状の海に最初の生命を誕生させてから現在のような人間を出現させるまで何十億年もの間、意識を育んできた母であると考えております。

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