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日蓮大聖人・池田大作

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仏教のアジア各地への流伝  

「内なる世界 インドと日本」カラン・シン(池田大作全集第109巻)

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2  カラン・シン 仏教のなかの小乗派、大乗派、ヴァジュラヤーナ(金剛乗)派のそれぞれの長所に関して価値判断を下すのは私にはむずかしいことです。ただヴァジュラヤーナ仏教、つまりタントラ仏教(=密教)については、私はそれなりに評価しています。
 人間の性格は一般に考えられているよりも、はるかに複雑で神秘的なものであり、その内奥の欲求を満足させるには知的な命題や道徳的な戒律だけでは必ずしも十分ではありません。私はヴァジュラヤーナ仏教を非難するどころか、それは仏教とヒンドゥーのなかのタントラ教的要素が一体となって発展した、たいへん魅力的で創造的な一派であると考えております。
 あなたは性行為と精神的悟達との結びつきに驚いておられるようです。
 ヒンドゥー教にはタントラ派あるいはクンダリニー・ヨーガ派とでもいうべき立派な一派があって、その一派は性行為と精神的悟達とは密接に結びついており、性的エネルギーを精神的悟達に転換することができるとの仮説を前提としています。混雑した都市に住む人々には、これは奇妙な教理に思われるかもしれませんが、ヴァジュラヤーナ仏教が起こったのは都会ではなくて、生態はおろか空気さえもまったく異なる、吹きさらしのヒマラヤの高山であったことを念頭においてください。
 ヴァジュラヤーナは偉大なタンカ(絵巻物)やフレスコ壁画、彫刻に表現されるじつに見事な芸術の開花をもたらしました。ヒマラヤ山脈一帯にきわめて非凡で傑出した芸術作品がたくさんありますが、それらの作品が幾世代もそこで孤立した生活を営んできた仏教僧によって作られたものであると知ったとき、その感動はとりわけ大きなものとなります。
 インドの伝統では、ヴァジュラヤーナ派の起源は偉大な師パドマサンバヴァ(八世紀)にさかのぼります。クンダリニー・ヨーガ派の教理を復興しようとした最初の勇気あるヨーロッパの学者はアーサー・アヴァロンのペンネームを用いたジョン・ウッドロフ卿でした。彼の広範な研究は一九二〇年代に出版されましたが、それは以前には不明瞭で、広く誤解されていたこの体系に大いなる光を当てるものとなりました。
 もっと最近では、パンディットクリシュナという名前のカシミール人が、すばらしい自伝『クンダリニー』をはじめ、この分野を扱った一連の書物を著しました。
 ヒンドゥー教の伝統では、クンダリニー(蛇)の力は脊椎の基部に存在すると信じられている偉大な霊力です。ある状況のもとでこの霊力が目覚め、脊柱を昇っていき、その過程でさまざまな中枢、すなわちチャクラにエネルギーを注ぎ込みます。チャクラは七つあり、クンダリニーの上昇にともなって次々に活性化されていくと考えられています。六つのチャクラを貫通したのち、霊力は七番目のチャクラである「千葉の蓮華」が存在する脳の皮質へと流れ込みます。これによって人間の意識は変容し、神聖な開悟と融合するのです。
 そうした教義に接したことがなく、ましてや、今、述べたような経験などまったく見聞したこともない人々にとっては、これは奇妙で、秘教的に思えるかもしれません。しかし、それはヒンドゥー教およびヴァジュラヤーナの伝統における重要な要素なのです。

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