Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

アショーカ王と西方世界  

「内なる世界 インドと日本」カラン・シン(池田大作全集第109巻)

前後
4  カラン・シン インドと西方世界との交流は、模糊とした太古に始まり、近世のイギリス人の到来にいたるまで数多くあります。インド史を専攻する学者のほとんどは西方志向が強かったので、その調査・研究は主に西方との交流を中心としてきました。ところがもう一つの側面、つまりインドの東方との関係はまだ十分に注目されていないのです。
 アショーカ王はまさに、インドと東方世界との関係において新時代を画した偉大な人物です。王が仏教をあまねく流布するために力を尽くしたというあなたのご発言は、的確なものです。
 私の考えでは、王の努力は西方よりも東方で成功を収めました。その理由は、東方の諸民族がいつでも新しい思想を比較的容易に受け入れてきたのに対して、
 西方民族は、ゾロアスター教にせよ、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教にせよ、厳格な一神教であるセム系の宗教に、大きく影響されてきたからです。もちろん、この分野は全体としてもっと深く研究する必要があります。
 ところで「プリミティブ(原始的)」という言葉は英語ではある種の否定的な意味をもつので、小乗仏教のことをそのように呼ぶのは好ましくないと思います。しかし、あなたのおっしゃるように、仏教が西方世界に及ぼした影響は、大乗教団興隆以前の初期発展段階のほうが、それ以後よりも大きかったように思われます。仏教と初期キリスト教との相互影響は、一般に知られている以上に深いものがありました。おそらく、サンスクリットの経典がまずパフレヴィ語やアラビア語、シリア語に、そしてそれらから西方諸国の言語へと翻訳され、ジャータカのような仏教思想の諸要素を西方の人々の意識のなかに持ち込むことに役立ったのです。
 あなたのご質問に対する私の見解を終える前に、一つの重要な考えを述べたいと思います。仏教はアショーカ王の努力によって、東アジアで発展いたしました。この点については、かなりよく研究されております。しかし一方、ヒンドゥー教もカンボジア、マレーシア、インドネシアを含む多くの東アジア諸国に、仏教と同じくらい強い影響をあたえたことを忘れてはなりません。
 おそらく、世界最大のヒンドゥー寺院はカンボジアにあるアンコール・ワットです。またインドネシアのバリ島では、今日でもヒンドゥー教は隆盛をきわめております。ジョクジャカルタにある壮大なボロブドゥール仏跡が世界中に知られているのに、同じジョクジャカルタのプランバナンにあるそれ以上に荘厳なヒンドゥー寺院がインドネシア以外ではほとんど知られていないということは、私には不思議に思われます。インドが東南アジアに及ぼした影響を理解するには、仏教の伝統だけでなくヒンドゥー教の伝統も斟酌しなければならないでしょう。
 池田 たしかにそのとおりであろうと思います。これから、アジアの歴史学的研究が進むにつれて、ヒンドゥー教の影響も明らかにされていくことでしょう。これまで仏教の伝統のみに人々の関心が集中したのは、やはり普遍的宗教としての仏教の影響力があまりにも大きかったからであろうと思われます。

1
4