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日蓮大聖人・池田大作

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第十章 環太平洋時代への展望――日本と…  

「太平洋の旭日」パトリシオ・エイルウィン(池田大作全集第108巻)

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8  差別の少ないラテンアメリカ諸国に学ぶ
 エイルウィン すると、「環太平洋時代」におけるラテンアメリカの役割はなんであるとお考えですか。
 池田 平和学者のガルトゥング博士は、太平洋文明のめざすべき方向性として、「開かれた」「寛容」の文明を示唆しておりますが、私も同感です。環太平洋地域は、民族、宗教、言語、文化などの面で変化に富んでおりますが、その多様性をたがいに認めあい、共存共栄する開かれた文明を、私たちは真摯に模索していく必要があるでしょう。
 「摩擦」ではなく「触発」へ、「対立」ではなく「調和」へ、「破壊」ではなく「建設」へ――私は、こうした地球社会の規範ともなりゆく、「相互性・対等性」、また「漸進性」にもとづく地域協力のあり方を追求するにあたって、ラテンアメリカ諸国がこれまで培ってきた知恵と歴史の教訓を、他のアジア太平洋地域の国々と分かちあうことの意義は、まことに大きいと考えます。
 とりわけ、多人種社会における融和性など、歴史的にみて人種や民族などにもとづく組織的(国家的)な差別が比較的少なかったといわれる、ラテンアメリカ諸国の経験から学ぶべき点は多いのです。
 エイルウィン 北はリオグランデから南はフエゴ島にいたる中南米大陸の地域は、同一起源を有する同一地域、同一宗教、および単一言語を共有する二十カ国以上の国から成り立っています。つまり、共通の要素をもっている国々の集合体であるといえるかもしれません。
 池田 一般に中南米と呼ばれる地域は、貴国チリを含むラテンアメリカ諸国と、カリブ海とそれに接する大陸の周辺部にある国々に大別されています。このうちラテンアメリカは非常に広大な地域にまたがっているにもかかわらず、あなたが指摘されるように、世界の他の地域とくらべてみても、まことに特筆すべき等質性を有しています。
 面積や人口の面で圧倒的部分を占めているスペイン系やポルトガル系の国々は、イベリア的な文化・伝統・価値観を共有しております。
 また住民のほとんどがローマ・カトリックの信者であることも含め、共通の基盤はかなりの部分が、すでに形成されつつあるといっても過言ではないと思います。
  
 開放性をもったグローバル化
 エイルウィン ええ。ですから二十一世紀を展望するにあたり、私どもの先祖の建国者たちの夢は、統一されたラテンアメリカであったと思います。この夢は、私どもの間では、この統一思想の最大の象徴であるシモン・ボリバルという人物による「ボリバルの夢」として知られております。
 池田 シモン・ボリバル以来の、壮大な“夢”であるラテンアメリカ地域の統合は、たしかに胸躍るものです。
 これまでにも中南米統合連合(ALADI)や中南米経済機構(SELA)などが設立されたり、中米共同市場や南米南部共同市場が発足をみるなど、さまざまな試みによって一定の成果をあげてきております。しかし、最終的なゴールにいたるまでには、いまだ多くの難問が横たわっています。
 十九世紀に相争った記憶や、今日も続く国境紛争、また独立後の歴史がつくりあげた国家への帰属意識と国家につらなった利益の存在等々――「連帯」を阻む要素はいずれも容易ならざるものがあるようにも思います。
 こうしたなかで貴国チリが、ラテンアメリカの統合推進に一貫して積極的な立場をとられていることは、よく存じております。現フレイ大統領の父君であるエドワルド・フレイ・モンタルバ元大統領は、ことあるごとに国益という小異を捨てて団結するよう各国へ働きかけておりました。あなたもまた、一九九〇年九月の国連演説に象徴されるように、ラテンアメリカ地域の平和と民主主義を強化するための、今日的意味での安全保障を確立するための地域統合の実現をめざして尽力されています。
 エイルウィン あなたは中南米大陸を訪れ、ある程度、距離をおいた視点からこの大陸を観察されています。中南米民族の進むべき行方はなんであり、将来において太平洋沿岸の
 国々が果たすべき役割とはなんであるとお考えでしょうか。
 池田 歴史的に見ても、アフリカと同様、ラテンアメリカにおける国境の多くは、「お互いの民族的・文化的相違によって定められたのではなく、植民地時代の行政管轄区分に基づくものであった」(大井邦明・加茂雄三『ラテンアメリカ』朝日新聞社)と指摘されているように、元来、国と国を隔てる“垣根”は低かったと考えるべきでありましょう。
 あらためて申すまでもなく、クーデンホーフ=カレルギー伯が、ボリバルに端を発する“パン・アメリカニズム”に範をとり、“パン・ヨーロッパ運動”を唱導したことが時を経て、今日、ヨーロッパ連合(EU)として結実をみたことは周知の事実です。
 こうした点をふまえたうえで、私が強調させていただきたいのは、グローバル化(地球規模化)が進む現代の国際社会にあっては地域統合といえども、その体制は域内だけではなく、域外までも視野に入れた――いわゆるオープンネス(開放性)を十全に確保したものでなければならない、ということです。
 太平洋と大西洋という二つの海に面する広大な大陸からなるという特性を鑑みても、私は、ラテンアメリカが“開放性”を兼ねそなえた地域統合をめざすことが重要であり、もしその試みが成功するならば、他の地域への良きモデルになると確信するものです。
 その意味から申すならば、ご質問にあった太平洋沿岸の諸国の役割について私は、まさに地域ブロックの“玄関”となり“窓”となって、経済だけでなく、文化や教育といったあらゆる面での交流を積極的に進め、そこで得られた活力を域内へつねに注入していくことにあるのではないか、と思っています。                               

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