Nichiren・Ikeda

Search & Study

日蓮大聖人・池田大作

検索 & 研究 ver.9

はじめに  

「太平洋の旭日」パトリシオ・エイルウィン(池田大作全集第108巻)

前後
3  対談にあたって(池田 大作)
 私は強大なる権力と戦った人を尊敬する。
 その代表的人物の一人である、青年革命児エイルウィン先生の人生行路を尊敬する。
 平凡な、そして実直な、波風を立てない人生を生きる人も多い。それはそれで立派な人生と言えるかもしれない。
 しかし、より良き社会を、より良き未来を、より良き進路を創るため、生命を賭しての正義の戦いをしていく人を、私は深く尊敬し理解する。
 決して近視眼で、その人を観たくはない。また、遠視眼で観てもならない。
 つねに事実に即して正視眼で、その人物を、そして、その軌跡を深く掘り下げて観ていくことを、心がけてきたつもりである。
 過去の歴史において、偉大な善人が正当な評価を得られなかったことが多々あったであろう。
 小人物が誇大な策略の宣伝を使って善人になったり、大人物の虚像をつくりあげる場合も多々ある。
 それに対し正義の人が、高貴な善の人が、誠実な指導者たちが、陰謀と捏造と策略によって牢に入れられ、惨殺され、無念な死をとげることもある。
 そして、また、そのような人たちが社会において大悪の烙印を押され、つくられた陰謀の歴史に、そのまま真実のごとく残され、つづられてきたことも多々ある。
 よく私の恩師は語っていた。
  「人間の妬みほど、恐ろしいものはない。
   人間の魔性ほど、怖いものはない。
   ゆえに、汝自身に力をつけよ。
   汝自身に悔いなき信念をもて」と。
 また、ある哲学者の言葉を、忘れることができない。
 「人間が人間を裁く。しかし、人間は科学ではない。いかようにでも、悪の陰謀の連帯があれば、人を陥れることは簡単である。
 ゆえに、正義の連帯を創る努力を、絶対にしなければならない」と。
 そしてチリ共和国のエイルウィン先生は、言われた。
 「嘘は暴力にいたる控室です。『真実が君臨する』ことが民主社会の基本なのです」
 一九七三年から、じつに十六年半にもおよんだ軍事政権に終止符を打ち、平和裏に民政への移行をなしとげた哲人指導者が、エイルウィン先生である。
 この快挙は中南米諸国の民主化とあいまって、その後の「ベルリンの壁」の崩壊や「ビロード革命」など東欧の民主化とも連動し、民衆の意思に沿って人類史の流れを決定的に変えていった。
 こうした劇的な展開の陰に、エイルウィン先生の類まれなリーダーシップがあったことは、よく知られている。
 私が初めてお会いしたのは、エイルウィン先生がチリの元首として、わが国に初の公式訪問をされた一九九二年(平成四年)十一月である。
 その翌年二月には私がチリを訪問し、大統領府にて語らいを重ねた。そして九四年七月にはエイルウィン先生が創価大学で学生たちに講演をしてくださった。
 これらの対話を、さらに書簡の交換などで補いながら、このたびの対談集の発刊となった次第である。
 その話題は、「チリの民主化の過程」「大統領時代の回想」「人権の新しい理念」「環太平洋時代の展望」「冷戦後の新たな国際秩序」「核廃絶への道」「民族主義の帰趨」「教育の指標」「青年への期待」「環境保護と経済成長」と多岐にわたった。
 大統領職を後進に譲られたあとも、「正義と民主主義」財団を主宰される激務のなか、エイルウィン先生は私の問いかけに誠実に応えてくださった。
 その厚い友情と信頼に、感謝は尽きない。
 新しい千年へ、地球文明の震源地として環太平洋地域に寄せられる期待はいよいよ高まる。
 チリと日本は、太平洋で結ばれた「隣国」である。
 その両国の修好百年の佳節に結実をみた本書が、さらなる相互理解の一助となり、新世紀を生きゆく若い世代が、ともに「太平洋の旭日」を仰ぎゆく契機となれば望外の喜びである。  一九九七年九月二十五日

1
3